小話の詰め合わせ。【三半】
学パロで、告白
「交換日記からお願いします!」
グラウンドで活動している運動部の掛け声にも引けを取らないほどの声量で、三成は叫んだ。叫びつつ、正座と土下座の中間あたりの姿勢を取って平伏した。頭上では、きょとんと疑問符を浮かべたような顔をした半兵衛が幾度か瞬きを繰り返している。
「………………何の話?」
今日は早く帰って本でも読もうかな、と放課後の予定を頭の中で組んでいた半兵衛には何のことかさっぱり分からなかった。下校途中だった足を止めて半兵衛は首を傾げる。三成にとっては一世一代の愛の告白の真っ最中であったのだが、導入が分かり難すぎて伝わっていない。それに気づいた三成は、これでは本懐を遂げられないっ!と焦ってぐわっと顔を上げた。
「はっ!肝心なことを言い忘れていた……申し訳ありません。私は半兵衛様のことをお慕いしておりまして、めろめろで、ぞっこんで、ホの字で、首ったけなのです!」
「………そう。それで?」
久しく日常会話では聞かない物言いに思わず笑い出しそうになったが、すんでのところで堪えた半兵衛は先を促す。それに答えるようにして三成は目をきらっきらと輝かせて続きを歌い上げるようにして語った。―――下校途中の生徒も少なからず通る、校門の真ん前で。
「毎日毎夜毎時間あなたのことばかり想っているからか、この胸は今この時も絶えず苦しくも甘美な痛みに打ち震えて気が狂いそうなのです、そこで、もし叶うならば、半兵衛様がその慈悲と慈愛に満ちた気高き心馳せを少しでも私に傾けて頂きたく、本日ここに願い出てきた所存であります。得手勝手な願いとは重々承知。しかし、それでも希わずにはいられなかった……細い細い一縷の望みであれ、この慕情と情炎は抑えきれず………。そうですね、何故私があなたを恋い慕うようになったのかと問われると、明瞭な確言は存在せず、ただそれはあなたがあなたであったから、私が私であったからと答える以外に言い表すしようがありません。もし半兵衛様が私を受け入れて下さるというなら、私は天にも昇れる思いで果ては随喜の涙に咽び泣いてしまうことは必至、そして、生涯をかけて愛慕を絶やすこと無く心を捧げ続けると誓約します。色恋というものは常に刹那の夢幻で、必ず薄れる運命だと言われますが、私の想いは永遠だと証明してみせます。おこがましいことと分かってはいますが、願わくば、半兵衛様からも同じように想って頂けるよう……その御心に少しでも私の存在を残せたらと…(以下略)」
意訳:
好きです。ずっと好きでした。
私はこれからもずっとあなたを好きでいます。
だから、あなたにも私を好きになってもらえたら嬉しいです。
勝手なお願いですが、私を好きになってくれませんか。
そうしてくれると、私はすごく嬉しいです。
「端的にまとめると?」
「付き合って下さいっ!!!」
「いいよ」
長い長い演説をきちんと最後まで聞いてやった半兵衛は、簡潔にまとめた最後の一言を聞いて、小さく頷いた。ふふ、と笑みを零しているその仕草に魅了されつつも、三成の脳内では高らかなファンファーレが鳴り響いていた。玉砕覚悟で挑んだだけあって、喜びも一入だ。歓喜の涙が目頭に溜まってきたような気がする。
「本当に泣くとは………」
「ううっ、みっともない所をお見せします。嬉し涙なんか初めてで……どうしたら良いか分からず」
「泣くのは別に構わないけど、でもその前に君の名前を教えてよ」
「はっ!また忘れていた……すみません、私は1年B組の石田三成と申します」
「そう、みつなりくん、ね」
覚えたよ三成君、これからよろしくね。
と、友に対する握手のような気軽さで半兵衛が手を握ると、三成は飛び上がるように直立して、茹でダコのように頬を紅潮させながら硬直した。告白だけでも精一杯だった三成には、まだ接触は早かったのだろうと半兵衛は理解して、これからが楽しみになった。これで、この子にキスでもしてやったどうなるんだろう?と悪戯心を芽吹かせながら。
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※補足設定
・何かこの子面白そう、罰ゲームだか悪ふざけだか知らないけど、付き合うくらいならいいかな、何せ交換日記から始めるお付き合いだし、と軽い気持ちでOK出してみた半兵衛。
・その日はこの後一緒に交換日記を買いに行きました。初デート。
・帰りは半兵衛の家まで付き添い三成君。
・「今日は本当に至福の一時でした……またの機会を楽しみにしております。それでは、お休みなさい」
・去り際にちゅー。
・予想していなかっただけに半兵衛も思わず硬直。
・1日で告白とデートとキスまで終わらせるとは…純情君かと思いきや、やることはやるんだな……と、ドキドキしちゃう半兵衛。
・それ以来、攻めわんこ気質の三成にどんどん絆されてしまって「こんなはずじゃなかったんだけどな……」と年下に翻弄されつつも主導権は渡すまいと頑張ってリードしようとする半兵衛。はっぴーえんど。
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現パロで、告白
「付き合って下さい!」
「どこへ?」
「私の人生という名の旅路へ!」
「交通費は?」
「プライスレス!私が無償の愛を捧げますゆえ」
「ちゃんと幸せにしてくれる?」
「お任せを!身命を賭してでも必ずや」
「そうか。じゃあ安心だね」
「勿論で御座います。安心安全の長期保証付きプランですから」
「頼もしい限りだ」
「で、では――――」
「だが断る」
「そんな!」
「だって、そもそもどうして僕が君の人生に付き合ってやらないといけないんだ。君が、僕に付き合えばいいだろう。人生の旅路だろうが死出の旅路だろうが、何処までもついてくるといい。それなら許可しよう。どうかな?」
作品名:小話の詰め合わせ。【三半】 作家名:honoka