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小話の詰め合わせ。【三半】

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※ほんのり転生モノ。
※後見人半兵衛と拾われ子三成。

江戸中期のパロっぽい話

大飢饉により至る所で屍の山が積み重なった時代。親が死ねば子も死ぬ運命。幼き子であれば決して一人では生きて行けない時代に生まれ落ち、そして孤児となった三成を拾ってくれたのは、とある大名のもとで教育係のような仕事をしていた半兵衛であった。半兵衛がどのような人間なのか、何を思って拾ってくれたのかは分からないが、三成にとっては己を生かしてくれた、それだけで十分だった。薄汚い小僧の体をその手で洗って、撫でて、抱きしめてくれた。温かい食事と雨風を凌げる場所を与えてくれただけでなく、あたたかい愛情とやすらぎを与えてくれた。独りになってからは親の顔すら忘れて乞食として生きる術しか知らなかった三成に、いろいろなことを教えてくれた。生きる意味をくれた。三成という名すら、半兵衛から与えてもらったものだ。
「何となく……君に似合いそうな名だと思ったんだ。嫌かな?」
「そんなことありません!半兵衛様に頂いた名は、私の人生における最初の宝物です」
「良かった」
儚く、笑う人だった。
実際は躾のために容赦無く引っ叩いたり叱責を飛ばしたりすることもある半兵衛だったが、三成にはどうしてか、儚く感じられた。まるで一度死別したことがあるかのように、時々すぅっと半兵衛の影が薄くなって彼岸へ行ってしまうのではないかと思うほどその存在を希薄に感じた。一度、半兵衛が血を吐き続けてそのまま冷たくなってしまう夢を見た所為かもしれない。そのことを告げたら「それはただの夢だ。僕はどこへも行かないから、安心してお休み」と、余程情けない顔をしていたからか、そのまま一緒の布団で寝かせてもらった。それ以来怖い夢を見ては褥に潜り込んで、その体温を直に感じて半兵衛の生を確かめながら眠りに落ちるというのが常になっていった。
とはいえ、いつも一緒に寝かせてもらえる訳ではなかった。真夜中に半兵衛の室に行っても不在で、朝になってようやく帰って来るということもあった。どこへ行っていたのかと問えば、知人と話し込んでいたから、急な酒盛りがあったから、などと理由はその都度まちまちであったが、三成にはその嘘がとても痛かった。その頃から嘘が嫌いになった。
また、月に二度三度、部屋を訪れればいつも柔和で穏やかな笑みで迎え入れてくれる半兵衛が、堅く怖い顔をして三成を部屋から追い出すことがあった。
「むこうに行っていたまえ。こっちの部屋には近寄るんじゃないよ。いいね?」
三成を養うためであれば、何をも厭わなかった半兵衛が何をしていたのか。何をされていたのか。分からないほど三成は馬鹿ではなかった。すぐには気づけなかったが、それでも感じ取ってしまった。半兵衛の身分はそれほど高くないのだという。それなのに上等の衣服や住居を与えられ、三成にも武士の子弟のような上級の教育を受けさせていた。それが出来ていたのは何故か。それを可能にしていたのは、誰か。三成を養う半兵衛は、誰に養われていたのか。半兵衛が教育係を務めているという大名か、その主に仕える他の家老か。
誰でも同じだった。誰であろうと、――殺してやりたくなった。



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三成を最初に見たとき、半兵衛は既視感に囚われたのを覚えている。何となく三成の顔に見覚えがあるような気がして、何となく捨てておけなくて、そのまま何も考えず拾ってきたのだ。もしかして前世で関わりがあったとか、いやまさかね、でもこのまま独りにしておきたくない。そう思って三成を拾って育てて、ここまで大きくさせた。
汚れた生き方をしてきた人生だったが、三成の存在だけは強く誇りに思えた。たとえ誰に体を差し出そうとも浅ましく媚を売ろうとも、三成にだけは手出しさせずにきた。見目良く生まれ落ちてこられたのは幸いだったと思う。閨で頬を寄せて甘言を囁けば女も男もころりと陥落して、生きていく上で十分なだけの情けを施してくれた。
時折、その場面を三成に見られそうになって慌ただしく追い返してしまったこともあるが、あの子も馬鹿じゃない。力なき弱者は、力を持つ者に従属するしか生きる術がないことを知っているから、凡そのことは悟っているだろう。
あとは三成を何か良い職に就けるか、良家に養子か婿入りをさせたら自分の役目も終わりだろう。如何に三成を幸せにするか、その策を念入りに巡らせていた半兵衛の元に、ある晩その三成が前触れもなくやってきた。
そして半兵衛の手を取って、こう急かす。

「半兵衛様、この屋敷を出ましょう」


嫌な予感に唖然としている半兵衛などお構いなしに、三成は言葉を続けた。
「半兵衛様のお身体をあのように汚すなど、もう我慢がなりません。あのような無体を強いる下衆共は私が消しておきましたので、どうぞご安心を」
そう誠意に満ちた声で半兵衛の名を呼んだ三成の目は、暗闇に映えるように、赤く光っていた。何かに取り憑かれたのかと思うほどに、凶々しい赤。そしてその腰には、刀。
「私はもうただの足手まといにしかならない子供ではなくなりました、あなたをお守りすることだって出来ます。だから、どうかこの手を取って、私と共にどこか遠くへ参りましょう」
差し出されたその手は赤く染まっていて、もう戻れないのだと言葉少なにして半兵衛にその事実を突きつけた。

今生こそ、幸せにしてあげたかったのに。

「今生こそ、お側を離れずに生涯守り抜くと誓う許可を、私に!」