小話の詰め合わせ。【三半】
三半三のような話
三成君とお付き合いをするようになった。
山あり谷あり二転三転と迷走して紆余曲折を経てすったもんだの末、情を交わす間柄になることが決まったのが、つい3分前である。それはいい。三成君と好き合うことに関しては全くもって問題ない。むしろ嬉しいくらいだ。先程お互いに気持ちを確認し合って、気が晴れ晴れとなった。
だがしかし、まだ最重要課題が残っている。
“どちらが男役でどちらが女役を務めるのか”
という深刻な問題が。
いや。そもそも性交渉無しの清いお付き合いになるのかもしれないし、まだ付き合い始めて5分も経っていないのだから気が早いような気がしなくもないけれど、こういったことは最初に話し合い、確認しておいた良いだろう。後々の憂慮は先に片付けておくべきだ。
というわけで、この問題について一通り考えてみたんだけど、やっぱり年齢的にも立場的にも僕が男役をやって然るべきだよね。うん。僕の方が上役だし。それに三成君の方が可愛い顔しているし、身体つきは豊満とは言えないかもしれないがあの白い肌は綺麗で吸い付きたくなるし、僕も彼が相手なら欲情できる、と思う。おそらくね。
以上。検証完了。
次は交渉に移ろう、念のため三成君の意見も聞かなくては。
「三成君……昼間からこんな話題をするのも気が引けるけど、僕らにとっては大事なことだから話しておくよ。 閨でのことなんだけど 」
「半兵衛様!私もそのことでお話しておきたいことがございまして……っ」
口を切った三成君はもごもごと躊躇うようにして続けた。
頬を赤らめながら、それでも必死になっている様は見ていて一際心をそそられた。
「その……何分私も初めてなもので……どうか、優しく教えて頂ければと」
「ああ、勿論だよ」
可愛いことを言ってくれる。
目一杯可愛がってあげよう、愛でてあげよう、多くの言葉を囁いてあげよう。
そんなことを思いながら頬を撫でてその気になっていたところ、「半兵衛様!」と名を呼ばれ勢いづいた三成君にぐわっと肩を掴まれた。地味に痛い。が、生き生きと目を輝かせて落ち着かない様子で心弾むのを抑えきれずにいるといった顔をされると何も言えなくなってしまう。
「ご教示頂いたことはすべて完璧に覚えていくつもりですが、それでも私の力が及ばず半兵衛様にご負担をかけてしまうやもしれません……だから、もしも痛みを感じたらすぐに仰ってください。最大限優しくするよう努めますゆえ!」
「……うん?」
その目は真剣そのもので、わくわくどきどきるんるんうきうきしているようだった。
滅多に表情筋を笑みのために使うことの無い三成君の、この嬉しそうな表情。
とろんと微睡んだような、惚けたような顔と、そして先程の言葉と態度。
今度こそ本当に何も言えなくなってしまった。
なるほど。
そうか。
ああ僕がそっち側なのかそうかそうかなるほど分かった。
(分かった。うん、分かった。)(そんなきらきらと期待するような目で見られたら断れないじゃないかばか。)(ああ分かったさ、いいよ分かった、了解した。)(君のためなら百歩譲って今回は僕が妥協してあげようじゃないか、だけどね)(でも、)(いきなり押し倒すのはやめてくれ口を塞ぐな服を脱がすな盛るなちょっと待て)
(心の準備くらいさせてよもう…っ!)
作品名:小話の詰め合わせ。【三半】 作家名:honoka