こらぼでほすと アッシー13
「あんたも、もっと食べろ。」
「いや、俺はもういい。」
飲み干したお湯割の焼酎が、いい加減に全身に廻ってくる。こうなると、もう眠くて仕方がない。黒子猫のぱくぱくと食べている姿に安堵すると、意識が途切れてしまった。最後に、「風呂入れよ。」 と、言ったところで、ブラックアウトだ。
はぐはぐと料理を摘んでいたら、「風呂入れよ。」の言葉と共に、親猫が背後にゆっくりと倒れこんだ。即効性だ、と、説明されてなかったら、慌てて、キラたちに連絡したかもしれないぐらいの勢いだ。立ち上がって、こたつの向こう側を覗いたら、気持ち良さそうな親猫の寝息が聞こえる。
「ロックオン? 」
声はかけたが、返事はない。かなり軽くなっている親猫だが、それでも刹那には持ち上げられない重さだ。寝室から、毛布を引っ張り出して来て、そっと被せた。枕もあったほうがいい、と、気付いて、それも運んで宛がった。そのまま残り物を食べ尽くし、刹那は、風呂に行く。寒冷地へ出向いていたので、それほど汚れていないが、一緒に寝るなら、身体ぐらい洗っておこうと思ったからだ。カラスの行水で上がったら、ちゃんと着替えのパジャマも用意されている。いつの間に・・・と、思うが、とりあえず、それを着る。寝室のエアコンは切って、枕と毛布を持って、居間に戻る。長方形のこたつなので、親猫の横にスペースは残っている。
・・・・俺は、あんたはニール・ディランディに戻ればいいと思う・・・・
ロックオン・ストラトスというコードネームを返上して弟に渡すというなら、そうして欲しいと思った。ティエリアが復帰可能ということで申請しているから、ロックオンのコードは生きているが、実際は難しい。今のロックオンに、組織の仕事をして欲しいとは、刹那はこれっぽっちも望まない。できれば、『吉祥富貴』の庇護下で、穏やかに暮らして欲しいと思う。それなら。コードネームは必要ではない。
周囲の灯りを消して、刹那もこたつに潜り込む。すうすうという穏やかな寝息と、ちょっと酒臭い息に、くふっと笑う。
・・・・俺がディランディさんちの子供だと言うなら、あんたも戻れ・・・・
元スナイパー元ガンダムマイスターのロックオン・ストラトスではなくて、あの緑の綺麗な島に住んでいたディランディさんに戻ればいい。刹那の故郷とは、まるっきり逆の風景は、ロックオンのピーコックブルーの瞳と、よくマッチしている。本来の姿は、やはりニール・ディランディなのだと、刹那は思う。ただ、それを言い出したら、落ち込まないかが気になった。誰かに、相談してみたほうがいいかもしれない。こういう時に、アレハレルヤがいないのは、痛い。
・・・・亭主に聞けばいいか・・・
日々、密接に付き合っている親猫の亭主なら、相談にのってくれるだろう。どうせ、一ヶ月ばかり滞在するのだから、その間に、相談してみようと考えて、刹那も丸くなった。
翌日、ハイネが差し入れに現れて、ぴったりくっついて寝ている親子猫に、どんだけいちゃいちゃなんだよ? おまえさんたち、と、ツッコミして叩き起こした。
すでに、午後になっている時間だが、ふたりとも、酒が入っていて熟睡だったらしい。
「とりあえず、ブランチ。それから、別荘に移動。」
「別荘? 」
「エクシアの整備しなけりゃならないだろ? で、せつニャンが、ママニャンから離れないだろ? つまり、そういうこと。」
昨日は降下して基礎整備だけ、ラボのスタッフがやってくれたが、本格的な整備は、まだ手をつけていない。キラとシステムを弄るにしても、まずは整備をしてからということになる。
そして、親猫には内緒で、ここの飾りつけをするには追い出さなければならない。この年になると、そろそろ気恥ずかしい行事だが、黒子猫が帰っているから、派手にしたいということに、キラと悟空が決めた。ただし、当日の夜は、店も忙しいから、スタッフは、ちよこっとお祝いという程度にはする予定だ。
「三蔵さんに連絡しといたほうがいいよな? 」
「いや、昨日のうちに予定は決まってたから、トダカさんが、おまえの亭主に説明はしてた。・・・・まあ、亭主の声が聞きたいってーなら別だけど? 」
「そういうことにしとくさ。」
携帯端末を開いて、寺へ連絡する。悟空が出て、すぐに、三蔵に代わってくれたが、「ちびの相手してやれ。」 と、言うだけ言うと、あちらから切れた。こっちのことは気にするな、という意味なので、ロックオンも大人しく従う。
「ついでに、おまえさんの検査もするぞ? 」
「誰が? 」
「俺に決まってるだろ? 間男が懇切丁寧に調べてやるから有り難く受けろ。」
「採血以外は有り難いと思う。」
ラボへ立ち入らせないため、整備の時間は、ハイネが相手をするつもりだ。どうせ、午睡の時間があるから、それほど時間はかからない。本当に、ドクターからも指示は出ているので、ラボの医療ルームでやってしまうことにした。刹那にしてもロックオンにしても、今のところは、ラボも特定の場所以外の出入りは出来ないようにしている。オッドアイのオレンジ猫の行方を検索されては困るから、キラが認証で入れる場所と情報は、特定してしまった。
作品名:こらぼでほすと アッシー13 作家名:篠義