こらぼでほすと アッシー13
「まあ、あいつの悪運があれば、どうにかなんだろ。それに、こっちには、キラたちがいる。それなりの保護はしてくれるはずだ。」
確かに、組織が再始動すれば、『吉祥富貴』の人間たちも動き出す。刹那たちの救出のために出張ってくることにはなっているが、それだって常時ではない。悪条件下で被弾すれば、即座に死に直結することだってある。
「だが、ロックオン。」
「うん、強制はしないさ。おまえさんが選べばいい。俺は、そんなつもりだってだけだ。・・・・あいつを加入させるつもりになったら、コードネームは、あちらに引き継がせろ。それだけは頼む。」
「え? 」
「俺のコードネームを使えば、ある程度の機密事項まで閲覧可能になるだろ? 」
トダカと話していたことを、ロックオンは、そのまま伝えた。何年も使っていたコードネームだし、何よりマイスターだったから、かなりの情報は閲覧できる。例えば、ティエリアのことも、それで知り得たことだ。まあ、そこまでのランクは閲覧できないようにしてもらわねばならないが、それでも新しいコードネームよりは格段に自由が利く。
「それと、俺のことは死んだことにしておけ。あいつとは縁が切れてるし、俺が生きてるって判ったら、あいつはやらないだろうからな。」
十年少し逢っていないが、基本の性格なんてものは変らない。そうなると、甘えっ子気質は残っているはずで、兄が生きているなら、兄がやればいい、兄の代わりなんて御免だなんて無茶なことを言うのは、ロックオンには想定内のことだ。昔から比べられるのが大嫌いだったから、自分との比較なんてされたら、それこそキレるだろう。それなら、死んだことにすればいい。どうせ、逢うことなんてないのだ。逢ったところで、実弟は無視するだろう。家族としての繋がりを切った兄なんてものに未練はないはずだ。
「あんたは、それでいいのか? 」
逢いたくはないのか? と、刹那の赤い瞳は尋ねている。逢いたくないと言えば嘘になる。この世で、たった一人の肉親だ。だが、逢えないだろう。裏稼業に入る時に、そう決めた。
「いいんだ。おまえが選ぶことに反対はしない。ただ、こっちにいりゃ、生存率が上がるかな? って、俺は姑息なことを考えてるだけだ。」
新しい湯飲みに、同じように蕎麦焼酎のお湯割を作って、ロックオンも口にした。できれば、実弟には、戦いとは無縁の世界に居て欲しかった。だが、どこでどう間違ったのか、似たようなところに実弟は居た。それならそれで生きていられるように保護してやりたいとは思う。
「わかった。そのつもりで候補の一人として把握しておく。時期を言え。どうせ、あんたの弟の観察には行くから、ついでだ。」
それなら、と、ロックオンも、その時期を口にした。出来る限り、近しい日に休みを取って訪れていた。そこに捧げる花で、互いが生きていることを確認していた。
「白いバラの花束にしてくれ。俺の母さんが好きだったんだ。」
「わかった。」
遠くを見るように刹那の背後に視線を漂わせているロックオンは、自分の記憶を思い浮かべているのだろう。刹那のことは、折に触れ、過去を話していたが、ロックオンは、ほとんど、刹那に教えてくれなかった。トリニティーが暴露したことで、ロックオンとの繋がりは判明したほどだ。所属していたKPSAの活動が、世界の歪みのひとつだと思い知らされた。
「もし、あんたの弟が、俺を撃ちたいと言ったら、応えるつもりだ。・・・組織が再始動して、世界の歪みを駆逐してからになると思うが・・・」
ロックオンは、結局、撃たなかった。刹那個人が悪いわけではなかったし、すでに、ロックオンの懐深くに飛び込んでいたからだ。だが、弟は違う。まだ、復讐したいと思っているかもしれない。
「ダメだ。それは許さないぞ、刹那。絶対に、あいつには言うな。」
「あんたは、それで呑み込んだが、弟は違うだろ? 真実は告げておくべきだ。」
「告げなくていい。復讐なんてな・・・・やっちまったら、俺みたいになる。だから、言うな。」
ぐいっと湯のみの液体を飲み干して、親猫は黒子猫の頭に手を伸ばす。ぽふぽふと叩いて、「おまえが負うものじゃねぇんだ。」 と、微笑んだ。刹那が所属していたのは、まだ小さな子供の頃だ。ただ命じられるままに、戦場で銃を撃ち生き延びた。生き延びるために、それしかなかった人間に、テロの罪を問うなんて、それも、小さな子供に被せるなんて、ナンセンスだ。
「おまえさんは、俺みたいな人間がいない世界を求めているんだろ? そのためにエクシアと一緒に、歪みを確認する旅をしているんだ。そのおまえさんが、いなくなったら、誰がやるんだ? 」
「世界の歪みを失くせば、俺の必要性はない。」
「くくくくく・・・刹那さんや、そう簡単に歪みはなくならないぜ? ひとつ壊しても、またぞろ現れる。世界ってのは、そういうもんなんだ。だからな、次の歪みを確認して、また駆逐する仕事が続くんだ。・・・・でも、少しずつでも、歪みがなくなれば、俺やおまえさんみたいな人間は減っていく。たぶん、おまえの寿命を全部使っても終わらないと思うぜ。」
連綿と続いている天上人の組織というのは、そういうことだ。なくならないから、続けていくしかない。刹那が現役を引退する頃に終わるようなものとは思えない。また、次世代に引き継がれていくのだ。
「だから、おまえさんは生きてないといけない。おまえさんが戦えなくなったら、次のマイスターに交代するために、次期マイスターを育てるためにもな。・・・・だからな、刹那。細かいことは捨てていけ。先にある目的が大きければ大きいほど、周囲の細かいことは切り捨てていくべきだ。これからも、武力介入を続ければ、俺やおまえみたいな子供も生み出すんだ。それに、いちいち、復讐されてたら、命がいくつあっても足りねぇーだろ? 」
刹那とロックオンの関係は、世界のどこにでもあるものだ。それが、たまたま、どちらもマイスターだったから集約されたに過ぎない。組織は必要悪として存在し続ける。絶対的な抑止力として世界を天上から監視するのが、本来の目的だ。
「俺は、いつ購えばいい? 」
「たくさん、これからも生み出してしまう俺たちみたいなのがいることを忘れなければいい。俺も、そう言われた。」
じじいーずたちに、そう言われて、ロックオンも罪を償うことに、生死をかけることは止めた。生きて、その罪を背負って前に進むほうが、時間がかかる。死んで終わらせるのは、自己満足だと気付かされたからだ。
「そうか。・・・忘れない。」
「うん、そうしてくれ。・・・おい、ちょっと摘めよ、これ、美味いぞ? 刹那。」
たぶん、自分の罪は、再始動に参加できないことだ。何があろうと地上で静観しているしかない。どんなに危険であろうと助けに行けない。ただ、見ているしかない。そうなったのは、復讐に目が眩んで暴走したからだ。刹那は、ロックオンを地上に縛り付けて、一緒に戦えなくなったのが、自分の受けた罰だと言った。限りなく些細な罪や罰だが、当人たちには、手痛いものだ。アレハレルヤたちが拘束されてしまったのも、ティエリアが一人になったのも、同じものだ。そう考えたら、ちゃんと釣り合いは取れているのかもしれない。
作品名:こらぼでほすと アッシー13 作家名:篠義