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確信犯/生き物の理

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花の香りが、突然薫る。帝人はさして驚く風でもなく、ただ縁側で『その時』をまっていた。
そしてすぐにその時は訪れる。当たりの気配が歪み、神々しいと感じるほどの神気を忍ばせて、あの男はやってきた。

「こんにちわ、今日も変わらず・・・だね」

相手の声はとても若く、瑞々しささえ感じるほど。

「何を言っているのですか。貴方だけですよ、変わらないのは」

帝人は自分の声を聞くと、眉を寄せた。相手の声は、昔も今も変わらないのに、己だけが時を急いている。
それが辛くもあり空しくもあり、当たり前なのだとも思った。

「・・・俺にとって姿形など、関係ないってずっと前から言っているでしょう?」

「貴方に関係なくとも僕にはあるんですよ、臨也さん」

今はもうこの目に映すことは出来なくなってしまった、漆黒の麒麟。
この世界の霊獣にして、絶対なる戦闘の神。麒麟が現れた軍は必ず勝利を手にすると言う・・・。
その麒麟の中でも特に最高位に着く黒麒麟。帝人は気配を辿りに腕を上げた。
臨也は哀しげに揺れる赤い瞳をその瞼で覆い隠すと、帝人がさしだした手に頬を当てる。

「相も変わらず良い触り心地ですね」

凹凸がない肌はきっと、記憶と違わず雪のように白いのだろう。
帝人は腕を更に伸ばし、臨也の髪に指を入れた。サラサラとこちらも触っていて気持ちがいい。
時折風に流れて、花の香りが帝人の鼻孔を刺激していく。
漆黒の髪、椿のような赤い瞳。新雪のような肌。もう、この目でこの美しい生き物を見られないのは惜しいと心の隅で思った。

「帝人君・・・俺はね、俺はっ」

「臨也さん、僕ら人は必ず天へと召されます。それが速いか遅いか、ただそれだけ」

臨也が息を呑む。帝人は目が見えなくとも、今臨也が傷ついたということは分かった。
分かったけれども、それが人の理なのだから帝人にはそれ以外言えなかった。

「臨也さん、貴方はきっとこれからも新しい主を見つけることでしょう。それでいいんですよ、それがあなた達麒麟の理」

「いやだっ・・・!嫌だよ帝人君っ!」

臨也は帝人の腕から離れるとポロポロ涙を零し始める。赤い瞳から幾つもの水滴がこぼれ落ちる。

「臨也さん・・・」

「俺は、俺はっ!帝人君以外要らない!必要ない!いやだっ!嫌だよっ!帝人君を忘れてほかの人間なんかに仕えたくないっ」

麒麟は主が死んだ後、その主を忘れて新しい主を見つける。そしてその主に栄光を、勝利を与える。
それが、麒麟に生まれた物の理であり、宿命。
麒麟の主になれるのは、天が決める。天が決め、それを麒麟に教える。それが天勅。
誰しもが必ず主になれるわけではない。だから人は麒麟に認めてもらうために、ひいては天に認めてもらうために修行をしたり、己を痛めつける。
帝人はそいう行いを一切行わなかった。ただ、己の回りの大切なものを守るために策略を巡らすだけの、小さな軍の軍師であったに過ぎない。
それが、どういうわけかこの黒麒麟に認められ、主としてこの大国の軍師に上り詰めた。
それで聞かされた理の真実。麒麟は聖人を選ぶわけではない。選ばれるのは本当にどういう人間という決まりがないのが理なのだそうだ。
そして麒麟の真実も知った。麒麟は半永久的に生きる。そして主に仕え、主が死ぬと新しい主を見つける。
前の主の記憶をなくして・・・・。

「・・・それは出来ないことでしょう。貴方は麒麟です。僕が死ねば、否応なく僕を忘れる」

「嫌だ嫌だ嫌だっ」

臨也はそのまま帝人を押し倒すようにその弱り切った身体を押し倒した。
臨也の手はそれでも帝人が頭を打たないようにと、彼の頭の後ろに回されている。

「帝人君・・・」

ポタポタと臨也の涙が帝人の頬に当たる。帝人は何もいなかった。言えるわけがなかった。

「・・・君を殺して、俺も死ぬって言ったら・・・どうする」

「大罪ですよ・・・分かっていて、言っているんでしょうね・・・」

臨也は生き物の中で最も天に近い存在。麒麟の口から決して出ることのない死を望む言葉。
帝人は大きく息を吸うと、口角を上げて笑った。愛おしいと臨也に言うように笑った。

「貴方と死ぬのも、悪くないですね。言っておきますけどきっと僕地獄でもこのよぼよぼな姿ですよ?」

臨也は瞠目すると、すぐにくしゃりとした笑顔を向けて帝人の唇にそっと己の唇を合わせた。

「君はどんな姿でも、美しい」


この世界から、麒麟一匹、人間1人ひっそりと姿を消した。
そのことを知るのは人間のごく僅かな知り合いと、生と死を司る神々だけ。





作品名:確信犯/生き物の理 作家名:霜月(しー)