最愛の人
熱
銀ちゃんの命の危機アル。
そう夜兎族の少女が緊迫した声で電話をかけてきたので、桂はそれ以降の予定をすべて放りだして万事屋に駆けつけた。
万事屋に到着した桂を待っていたのは、電話をかけてきたときの声の調子とは異なり落ち着いている神楽と、すまなさそうな様子の新八だった。
「……銀時は?」
想像していたのとは違っていて、桂は万事屋の応接間兼居間で困惑する。
「命の危機だと聞いたが」
「……あー、そこまでひどくはないですねー」
新八が眼を泳がせつつ答えた。
「なに言ってるアル」
すかさず神楽が口をはさんできた。
「風邪を甘く見るとヒドイ目に合うってマミーが言ってたアルヨ」
「……風邪?」
眉根を寄せた桂の眼のまえで、神楽は障子を勢いよく開けた。
障子の向こうには和室がある。
畳に布団が敷かれていて、そこで銀時が寝ていた。
「銀ちゃんが風邪ひいたアル。でも、銀ちゃんが甲斐性無しだから、私と新八はこれから出稼ぎに行かなきゃならないアル」
「出稼ぎ?」
「ここのところ仕事がぜんぜんなくて困っていたら、お登勢さんが旅館のアルバイトを紹介してくれたんです」
「旅館に住み込みで三食昼寝付きアル」
「昼寝は付いてないと思うよ、神楽ちゃん」
だいたいの事情はわかってきた。
「それで、俺にどうしろと」
「ヅラにはこれまでいっぱい貸しがあるネ。その貸しを今ちょっと返してもらうアル」
「すみませんが、こういった事情なので、銀さんの看病をお願いできないでしょうか?」
えらそうに胸を張る神楽の隣で、新八が頭を下げた。
桂はふたりをじっと見る。
そして、口を開いた。
「わかった」