最愛の人
たしかに神楽の言ったとおり、自分は万事屋に借りがある。
それに。
桂はちらりと銀時のほうに眼をやる。
ずいぶん具合が悪そうだ。
放っておけない。
内心、ため息をついた。
それから、新八と神楽は慌ただしく荷物をまとめ、それが終わると万事屋を飛びだしていった。
残された桂は銀時の寝ている部屋に入った。
布団の近くに腰をおろし、正座する。
銀時の顔を眺める。
「……もう季節は夏だというのにな。夏風邪は」
「バカがひくって言いてェんだろ」
瞼を開けないまま銀時が吐き捨てた。
「よくわかったな」
桂は即座に言い返しながら、おかしくて、つい、頬に笑みを浮かべた。
冷蔵庫を開けてみたら中は空に近かった。新八と神楽が病人の銀時を置いてでも出稼ぎに行かなければならなかったのが、よくわかった。
桂はしばらく泊まりこむための荷物を家に取りにいくついでに食糧を買った。
万事屋にもどると、冷蔵庫に入れなければならないものを適当に入れ、それから、和室に行った。
銀時が眠っている。
その近くに桂は腰をおろした。そばにある水の張った桶に指をつけてみる。ぬるい。
桂は桶を持って立ちあがり、台所に行って水を入れかえ、また和室に行った。
桶を畳に置き、その横に正座する。
そして、銀時の額の上にあったタオルを手に取る。
濡れたタオルは温かくなっていた。
銀時の身体の高い熱を吸ったように。
そのタオルを桶の水の中につけ、充分冷やしてから引き上げて絞り、銀時の額にもどした。
「……すまねェな」
桂の手が離れた直後、銀時がボソッと言った。
眼が覚めているのはわかっていた。たとえ忍び足で部屋に入っても、銀時はその気配を感じとるぐらい敏感なのだから、いくら高い熱を出して寝こんでいても、まわりでこれだけ動かれれば眼が覚めるだろう。
桂は少し笑った。
「おまえは頑丈なように見えて、よく風邪をひく」