最愛の人
ふたたび荷物を持って歩きださなければ。
そう頭は思うのだが、身体が動かない。
どうしても動かない。
うしろから近づいてくる気配を感じても、動けなかった。
背後から伸びてきた腕の中におさめられる。
「……おまえには負ける」
「あたりめェだ。テメーと違って、こっちは切実なんだからな」
抱きしめられる。
「てゆーか、そうでもなけりゃ、あんな恥ずかしいこと垂れ流さねェよ」
それで、さっき言われたことを思いだす。
たしかに恥ずかしい。
そう思うと、おかしくて、つい笑ってしまう。
身体の力が抜けた。
銀時の胸にもたれかかる。
「……しかし、この先どうするかだな」
「どーにかなるんじゃねェ?」
「まったく、脳天気だな、貴様は」
「先回りして心配すんなって言ったのはオメーだろ」
言い返された。
しかも、それは銀時の言うとおり、以前に自分が言ったことで間違いなく、反論できない。
また負けた。
そう思いながらも、桂は妙に愉快な気分だった。