最愛の人
しばらく黙ったままでいた。
なにも考えられなかった。
ようやく頭が動きだして、それから、口を開く。
「無理だ」
断った。
どう考えても無理だった。
とおの昔に終わったことで今さらであるし、昔と今では立場が違っている。自分は攘夷党の党首で、指名手配犯だ。一方、銀時は万事屋の主として、従業員をふたり抱えて、暮らしている。
昨夜は押し流されるように受け入れたが、あれは一夜のあやまちということで済ませてしまいたい。
「どうしてもか」
「ああ」
うなずく。
すると、銀時の腕があげられ、近づいてきた。
抱き寄せられるのかと身を硬くする。
だが、その銀時の手は肩には触れず、顔の横を流れる長い黒髪を少しつかみあげた。
その髪のほうに顔を寄せる。
「あいしてる」
ささやくように銀時は言う。
「たぶん、一生」
少し、息を呑んだ。
それに気づいたかどうかわからないが、銀時は髪を放し、寄せていた身体を退いた。
「けど、どうしても無理なんだよな」
銀時はかすかに笑った。
「なら、しょーがねェ」
眼をそらし、遠くを見た。
どこか空虚を感じさせる、寂しげな表情をしている。
そして、銀時は踵を返した。
背を向けた。
行け、と言われているような気がした。
だから、桂は荷物を持ち、身体の向きを変える。
玄関のほうへと歩きだす。
一歩、二歩、三歩進んだところで、足が止まった。
足が動かなくなった。
手から荷物が離れる。床に落ちる音がした。