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璃琉@堕ちている途中
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いつだって苦しくて、焦がれていて

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紅い虹彩が二つ、鼻先の触れる距離にある。ここまで近くで観察したことが無く、彼女がその美しさに見惚れると同時に、本能が反射的に瞼を閉じさせた。
頭の片隅で、この後どうすることが正しいのだろうと考える程には冷静だったが、実際それを行動に移せそうにはなかった。

『ピーンポーン ピーンポーン ピーンポーン』

まさに二人の唇が重なる瞬間、見計らったようにインターホンが鳴った。
階下でロックの解除を待つ人間がいる。
既に溶けたような脳内に割り込んだ来客の存在が、彼女の瞼を押し上げた。

「…何だ、もう三時か」

ぼやいた彼の吐息が、ルージュのピンクに染み込んで、彼女は肩を震わせた。
未だ恐ろしく至近距離にある彼の瞳。そして、唇。顎を支えたままの親指と人差し指が皮膚を撫でる。名残惜しいというように。
それから漸く、彼は彼女から離れた。

「ふ…っ………」

詰めていた息が漏れる。顔は身体の熱全てを集めたように火照り、意図せず涙が盛り上がる。
あのまま何も起きなかったなら、もしクライアントの訪問が五分も遅れていたら、どうなっていただろう。彼女はバクバクと五月蝿く忙しない胸を両手で押さえつけた。
そんな彼女を前に、珍しく困惑したように髪を掻き上げてから、彼は歩き出す。その頬を微かに朱が走ったのに、彼女は気づかなかった。

「…この人はコーヒーをブラックね。あと、お茶請けはクッキーでよろしく」

何事も無かったように、彼は上司の顔に戻り階段を降りて玄関へと消えて行く。
捨て置かれた形になるも、彼女は文句の一つも言えない。真っ赤な頬で、ただ、のろのろと途中で滑らせそうになる脚を叱咤しつつ階段を下り、キッチンへ向かうのみだった。





「ハァ………」

今日八回目の溜息を吐く。けれど、その温度はずっと上昇しており、彼女の胸はギュッと絞られたようになる。構わず準備を進めるも、胸は内から喰い破られたようにぐちゃぐちゃのままだった。
鮮やかに思い出す、彼の香水の匂い。紅い瞳、薄く開いた形良い唇。顎に宛てがわれた指が震えていたのは、気のせいなんかではない。眼差しは、これを真剣と呼ばずしてどうするのかという強さを秘めていて、己を簡単に見えない鎖で縛り上げた。
怖くて、けれど、嬉しかった。証拠に、このまま死んでしまうのではないかと感じるくらいに高鳴る胸が応えた。
―彼は自分にキスをしようとしたのだ。そして、自分はそれを、彼からの口づけを喜んで受け入れようとした。
これは噂に聴く、紛れもない、恋し恋される―――、

「波江ー」
「な、何…?」

他に何か用意すべきものがあるのだろうか。喫煙者なら灰皿か、別にミネラルウォーターを所望する人間もいる。
すると、キッチンに顔を見せた彼は、彼女の知る他のどれよりも眩しい、極上の笑顔で告げたのだった。

「続きは、また今度ね」

収まり始めていた頬の上気が再び開始する。動悸を鎮める暇さえ、彼に与えるつもりはないようだ。
このまま、コーヒーとクッキーを出させるのか。勿論彼には、砂糖とミルクで甘くしたコーヒーを。そして自分は、他人に彼の秘書だと、彼によって自慢気に紹介されるのか。

「臨也………」

―――どうしよう、幸せだ。

「今度って…いつよ…」

胸の病は酷くなるばかり。解決するつもりが、火を点ける羽目になるとは。あの笑顔は反則だろう。
彼女はおかしな、彼に恋し恋される自分を、初めて自覚したのだった。





(私は『いつだって苦しくて、焦がれていて』)

(当分この症状、続きそうなの)
(責任、取りなさいよ)