春のさざめき
四葉のクローバーが見つかる確立は10万分の1とか言われてるのに、なんでこんなに易々と見つけてくるんだろう。やっぱり妖精なのかもしれない。
千歳の行動はいつだって唐突で謎だから、何でこんなことをしてるのか、なんてことはいつも分からない。でもその気持ちだけは分かる。
だから俺だってそれに答えたい。与えられるばかりじゃなくて俺だって気持ちを返したい。
千歳は緩やかに微笑んで、俺の頬を撫でる。
俺はその手に自分の手をそっと重ねた。
「あのな、千歳。四葉のクローバーの花言葉には、幸福、っていうのともう一つ意味があるんやって」
なに、と千歳が息だけで問う。
俺は千歳からもらった四葉を一本差し出した。そして囁く。
「私のものになって」
千歳の少し驚いたような顔。それからちょっと頬を赤らめて照れたような顔。
俺のほうも、あ、なんだか俺すごいこと言ってしまったのかな、なんて今更思ってしまって頬が熱くなる。恥ずかしい。だけど後悔は無い。思ったことだから。
しばらくお互い赤い顔で見詰め合った後、千歳がそっと俺の手から四葉を受け取った。
そしてそのままふわりと俺に覆いかぶさる。
千歳の黒い髪が首の辺りに擦れてくすぐったい。髪に草が絡まっていて、ほのかに匂いがする。
「蔵、くら」
「、ん?」
「言われんでも、もちろん。というか、今更ばい」
そう呟く千歳の顔は見えない。
ただその声が酷く照れたような浮いたような声で、ああちゃんと伝わったんだな、と俺は嬉しくなる。
昼間っからこんな野原に転がって、しかも男同士でごろごろ抱きついて、ほんと春の陽気に当てられた変な人みたいだ、俺たち。
でも、なんだか今はそれを抑えられそうにない。仕方がない。
千歳がそっと顔を上げる。ああもう前髪まで草まみれ。
指でゆっくり一本一本取り除いてやる。
千歳がくすぐったそうに目を瞑って、俺が触れる髪がふわりと揺れて、もうなんだかその諸仕草すら、
「…、しあわせ」
そう小さく零すと、また千歳は照れたように優しく笑った。
来年は、”俺のものでいてくれること”そのものが”幸福”だって全部伝えられますように。
そしたらもっと浮かれた千歳の声が聞けるのかな、なんて。