【APH/東西】奇跡的な仲良し兄弟なので腐向けではない。
Unbewusste
穏やかな休日の午後。
急ぎの仕事もなく、掃除もあらかた終わり、一息入れるには最適の時間だ。傍らに先程焼いたクレープを置きながら、紅茶を煎れる——それは心地良い時間のはずだった。
ルートヴィッヒは、ゆったりと流れる休日の時間を楽しんでいたはずだった。突然訪ねて来たギルベルトの友人達に、リビングを占領されるまでは。兄は確かに騒がしいが、それはいつもの事だ。慣れもある。けれど乱入して来た兄の悪友たちに居場所を奪われては、落ち着かない。
もっとも突然の訪客は自分にもあり得る事だから、兄に文句を言えるわけもない。ルートヴィッヒの友人である気侭なフェリシアーノの方が、頻繁にこの家を訪ねて来る。フェリシアーノの訪問をギルベルトも楽しんでいるとはいえ、来客によりプライベートな時間を邪魔してしまうのは、お互い様だ。二人で暮らしている以上、それは避けられない事だ。自分だけが不満に思うのは良くないだろう。
そう結論付けたルートヴィッヒは、キッチンで彼らのための分も紅茶を煎れていた。せっかくなので、クレープも皿に盛って沿える。それらを持ち、リビングへと足を踏み入れた。
「兄貴、あまり騒がしくしないでくれ。それと、リビングはあとで片付けておいてくれよ」
「おー、ヴェスト。なんだよ、固えこと言うなよな!」
ケセ、と笑う兄は、差し出したカップにダンケ、と声をかけてくる。ビッテ、と返してから、残りの二人に視線を移した。
フランシスとアントーニョ。兄の昔馴染みだ。
「フランシスとアントーニョも、あまり騒がしくしないでくれ。俺はゆっくり本を読みたいんだ」
しかめ面のままでそう告げるのは、仕方がないだろう。実際、騒がしくされ、せっかく掃除を終えたリビングを占領され、茶の用意までさせられて迷惑を被っているのは事実だ。勝手知ったるいつもの連中に、わざわざ愛想よくしてやる必要などないだろう。そもそもフェリシアーノのような笑顔で応対するなど、いつ何時誰が相手でも不可能だが。
「もー、ルートヴィッヒは相変わらず可愛げないなあー。もう少し楽しそうな顔しろよ!」
ケラケラと笑うフランシスに、ますます表情が険しくなるのは無意識だった。人の家に上がり込んでおきながら、相変わらず失礼なやつだ。
「うるさい。何故お前ら相手にそんなことをしなければならない? そもそも俺に可愛げを求める方が間違っている!」
苛立ちに任せ、クレープを乗せた皿を乱暴におく。それを見遣るフランシスは、優雅にウインクを寄越した。
「お前んとこはクレープまでムキムキしてそうな男らしさだしな! もっと優雅にいけばいいのに。お兄さんのところの料理を見習いなよ」
「……………不満なら、食べてくれなくともいいのだが? そもそもお前達のために焼いた物ではない!」
菓子を作るのは、確かに嫌いではない。休日の良い気分転換にもなる。作る事自体もそれなりに楽しんでいるのだとはいえ、だからとはいえ、兄の悪友にまで振る舞うつもりなどなかった。兄相手には頻繁に出していたし、フェリシアーノや菊にならば振る舞う事も時折あるが、フランシスやアントーニョとは特別親しいわけではない。仕方なしにもてなしてやったところを、この言い草は一体何なんだ。
「おい、待てよ。俺のためではあるんだろ?」
傍らから手を伸ばして来た兄は、満面の笑みを浮かべていた。拒否されるなど微塵も思っていないだろうギルベルトの表情に、ルートヴィッヒは取り上げようと皿まで伸ばしかけていた手を止めた。
「ああ、まあ、それは確かにそうだな。兄貴と食べる予定だったからな」
兄弟二人で暮らすのだから、何か作る際にはもちろん二人分だ。わざわざ自分の分だけ作り、兄の分は兄に作らせるようなことはしようと思った事もない。光熱費はもちろん、食費も一人ずつの調理よりも二人分をまとめた方が無駄が少ないし、そもそもそのような嫌がらせめいた事をする必要性がまったく感じられない以上、家に二人揃っている時には兄の分も作る事が当たり前だ。逆に兄が料理をしてくれる時も二人分作ってくれるのだから、菓子を作る時には兄の分も作る。それは当然の事だろう。
へへ、いただき! とフォークにクレープを引っ掛けて口に運ぶギルベルトに、行儀が悪い、と小言を付け加えながら、けれどルートヴィッヒは自作の菓子を頬張る兄を見る事が好きだった。子供のように無邪気で、これではどちらが弟なのかがわからないが——ここに辿り着くまでの様々な出来事を思えば、今のこの平穏はとても幸せなのだろう。
「お前ら相変わらずブラコンだな! なにその恥ずかしいやり取り!」
向けられたフランシスの視線が奇異なものでも見るかのようだったため、ルートヴィッヒの視線も再び険しくなる。一体、何が言いたいのかはわからないが、からかいたいだけなのだということは良くわかる。
大体、今の会話のどこがブラコンとやらなのか。そもそも彼らの言う『ブラコン』という定義すら不可思議だ。仲が良くない兄弟もいる事は否定しないが、多くの兄弟は自分の兄や弟を当然のように好いているはずだ。別に自分たちだけが特別というわけではないだろう。自分の兄を好ましく思う事など当たり前だろうに、それを他人にからかわれる謂れはない。
「……すまないが、今の会話のどこにそのような要素があったのか、俺にはわかりかねる。ごく普通の兄弟との会話だと思うが? なあ兄さん?」
「ああ、俺にもさっぱりわからねえな。兄弟なんだから、一緒に掃除したり菓子食ったり酒飲んだりすんのは当たり前だろ? 同じ家で暮らしてんのに、なんでわざわざ別々にやる必要があるんだよ」
顔を見合わせたその先、兄も心底不可解だと言わんばかりの顔で、ルートヴィッヒは小さく頷く。兄が当然のように同意してくれた事が嬉しく、自然と口角が上がった。
「はあー。お前らねえ……俺の近所の眉毛なんかが聞いたら暴れるぞ、それ」
「あー、そりゃあいつんとこが特殊なだけだろ。ウチのが普通。なあアントーニョもそう思うだろ?」
はあ、と溜息混じりにフランシスは肩をすくめるが、そんな事情はこちらの関知する事ではないと言わんばかりにギルベルトは笑う。アーサーは彼の兄とも、弟として育てたアルフレッドともあまり仲が良くないようだが、それが一般的な兄弟とは言えないだろう。まったくをもって兄の言う通りだと、ルートヴィッヒも思う。
「まー、確かになぁ……。フェリちゃんとロヴィんとこも、あの海賊眉毛に比べたら良好やしな。けど、ギルベルトとこほどやないねー」
まあ、二人とも全裸で一緒のベッドに寝てるけど。さりげなく付け加えられた一言は普通の兄弟とはとても言い難い事柄だが、それに関しては誰しもが周知の事実で、誰一人としてそこに言及する者はいない。あの二人の間では、それが普通だ。そこに特別な意味があるわけではないのだとは、この場にいる全員が知っている。
「やー、でもさ。ルートヴィッヒの場合、俺とギルベルトに見せる顔全然違うだろ? なんでお前、兄貴と話してる時は穏やかな顔してんのに、俺の事は睨みつけるの?」
穏やかな休日の午後。
急ぎの仕事もなく、掃除もあらかた終わり、一息入れるには最適の時間だ。傍らに先程焼いたクレープを置きながら、紅茶を煎れる——それは心地良い時間のはずだった。
ルートヴィッヒは、ゆったりと流れる休日の時間を楽しんでいたはずだった。突然訪ねて来たギルベルトの友人達に、リビングを占領されるまでは。兄は確かに騒がしいが、それはいつもの事だ。慣れもある。けれど乱入して来た兄の悪友たちに居場所を奪われては、落ち着かない。
もっとも突然の訪客は自分にもあり得る事だから、兄に文句を言えるわけもない。ルートヴィッヒの友人である気侭なフェリシアーノの方が、頻繁にこの家を訪ねて来る。フェリシアーノの訪問をギルベルトも楽しんでいるとはいえ、来客によりプライベートな時間を邪魔してしまうのは、お互い様だ。二人で暮らしている以上、それは避けられない事だ。自分だけが不満に思うのは良くないだろう。
そう結論付けたルートヴィッヒは、キッチンで彼らのための分も紅茶を煎れていた。せっかくなので、クレープも皿に盛って沿える。それらを持ち、リビングへと足を踏み入れた。
「兄貴、あまり騒がしくしないでくれ。それと、リビングはあとで片付けておいてくれよ」
「おー、ヴェスト。なんだよ、固えこと言うなよな!」
ケセ、と笑う兄は、差し出したカップにダンケ、と声をかけてくる。ビッテ、と返してから、残りの二人に視線を移した。
フランシスとアントーニョ。兄の昔馴染みだ。
「フランシスとアントーニョも、あまり騒がしくしないでくれ。俺はゆっくり本を読みたいんだ」
しかめ面のままでそう告げるのは、仕方がないだろう。実際、騒がしくされ、せっかく掃除を終えたリビングを占領され、茶の用意までさせられて迷惑を被っているのは事実だ。勝手知ったるいつもの連中に、わざわざ愛想よくしてやる必要などないだろう。そもそもフェリシアーノのような笑顔で応対するなど、いつ何時誰が相手でも不可能だが。
「もー、ルートヴィッヒは相変わらず可愛げないなあー。もう少し楽しそうな顔しろよ!」
ケラケラと笑うフランシスに、ますます表情が険しくなるのは無意識だった。人の家に上がり込んでおきながら、相変わらず失礼なやつだ。
「うるさい。何故お前ら相手にそんなことをしなければならない? そもそも俺に可愛げを求める方が間違っている!」
苛立ちに任せ、クレープを乗せた皿を乱暴におく。それを見遣るフランシスは、優雅にウインクを寄越した。
「お前んとこはクレープまでムキムキしてそうな男らしさだしな! もっと優雅にいけばいいのに。お兄さんのところの料理を見習いなよ」
「……………不満なら、食べてくれなくともいいのだが? そもそもお前達のために焼いた物ではない!」
菓子を作るのは、確かに嫌いではない。休日の良い気分転換にもなる。作る事自体もそれなりに楽しんでいるのだとはいえ、だからとはいえ、兄の悪友にまで振る舞うつもりなどなかった。兄相手には頻繁に出していたし、フェリシアーノや菊にならば振る舞う事も時折あるが、フランシスやアントーニョとは特別親しいわけではない。仕方なしにもてなしてやったところを、この言い草は一体何なんだ。
「おい、待てよ。俺のためではあるんだろ?」
傍らから手を伸ばして来た兄は、満面の笑みを浮かべていた。拒否されるなど微塵も思っていないだろうギルベルトの表情に、ルートヴィッヒは取り上げようと皿まで伸ばしかけていた手を止めた。
「ああ、まあ、それは確かにそうだな。兄貴と食べる予定だったからな」
兄弟二人で暮らすのだから、何か作る際にはもちろん二人分だ。わざわざ自分の分だけ作り、兄の分は兄に作らせるようなことはしようと思った事もない。光熱費はもちろん、食費も一人ずつの調理よりも二人分をまとめた方が無駄が少ないし、そもそもそのような嫌がらせめいた事をする必要性がまったく感じられない以上、家に二人揃っている時には兄の分も作る事が当たり前だ。逆に兄が料理をしてくれる時も二人分作ってくれるのだから、菓子を作る時には兄の分も作る。それは当然の事だろう。
へへ、いただき! とフォークにクレープを引っ掛けて口に運ぶギルベルトに、行儀が悪い、と小言を付け加えながら、けれどルートヴィッヒは自作の菓子を頬張る兄を見る事が好きだった。子供のように無邪気で、これではどちらが弟なのかがわからないが——ここに辿り着くまでの様々な出来事を思えば、今のこの平穏はとても幸せなのだろう。
「お前ら相変わらずブラコンだな! なにその恥ずかしいやり取り!」
向けられたフランシスの視線が奇異なものでも見るかのようだったため、ルートヴィッヒの視線も再び険しくなる。一体、何が言いたいのかはわからないが、からかいたいだけなのだということは良くわかる。
大体、今の会話のどこがブラコンとやらなのか。そもそも彼らの言う『ブラコン』という定義すら不可思議だ。仲が良くない兄弟もいる事は否定しないが、多くの兄弟は自分の兄や弟を当然のように好いているはずだ。別に自分たちだけが特別というわけではないだろう。自分の兄を好ましく思う事など当たり前だろうに、それを他人にからかわれる謂れはない。
「……すまないが、今の会話のどこにそのような要素があったのか、俺にはわかりかねる。ごく普通の兄弟との会話だと思うが? なあ兄さん?」
「ああ、俺にもさっぱりわからねえな。兄弟なんだから、一緒に掃除したり菓子食ったり酒飲んだりすんのは当たり前だろ? 同じ家で暮らしてんのに、なんでわざわざ別々にやる必要があるんだよ」
顔を見合わせたその先、兄も心底不可解だと言わんばかりの顔で、ルートヴィッヒは小さく頷く。兄が当然のように同意してくれた事が嬉しく、自然と口角が上がった。
「はあー。お前らねえ……俺の近所の眉毛なんかが聞いたら暴れるぞ、それ」
「あー、そりゃあいつんとこが特殊なだけだろ。ウチのが普通。なあアントーニョもそう思うだろ?」
はあ、と溜息混じりにフランシスは肩をすくめるが、そんな事情はこちらの関知する事ではないと言わんばかりにギルベルトは笑う。アーサーは彼の兄とも、弟として育てたアルフレッドともあまり仲が良くないようだが、それが一般的な兄弟とは言えないだろう。まったくをもって兄の言う通りだと、ルートヴィッヒも思う。
「まー、確かになぁ……。フェリちゃんとロヴィんとこも、あの海賊眉毛に比べたら良好やしな。けど、ギルベルトとこほどやないねー」
まあ、二人とも全裸で一緒のベッドに寝てるけど。さりげなく付け加えられた一言は普通の兄弟とはとても言い難い事柄だが、それに関しては誰しもが周知の事実で、誰一人としてそこに言及する者はいない。あの二人の間では、それが普通だ。そこに特別な意味があるわけではないのだとは、この場にいる全員が知っている。
「やー、でもさ。ルートヴィッヒの場合、俺とギルベルトに見せる顔全然違うだろ? なんでお前、兄貴と話してる時は穏やかな顔してんのに、俺の事は睨みつけるの?」
作品名:【APH/東西】奇跡的な仲良し兄弟なので腐向けではない。 作家名:Rabi