この素晴らしき世界
「ドイツーお待たせ!カントゥチーニとカフェラッテ持って来たよー。」
リビングに戻ったら、ドイツは俺の方を睨むみたいに見ていた。
「お前はいつもいつも何故話を最後まで聞かないんだ…。」
「ヴェーだってドイツの話難しくて長いんだもん。」
「お前という奴は…もう少し真面目に物事を考えたらどうなんだ。」
「俺だって真面目に考えることあるよー。」
「ほう…何だ言ってみろ。」
「ヴェー…あそこ歩いてる女の子可愛いなー、とか、どうしたら上手くナンパできるかなー、とか。あと今日のお昼ご飯何食べようかな、とか、パスタ食べたいなー、とか、シエスタしたいな、とか。」
「それのどこが真面目に考えているんだ……。」
呆れた様にドイツは額に手を当てて溜息を吐いた。俺は結構真面目なんだけどな。
「あとね、もっとドイツのこと知りたいなー、とか。ドイツだけじゃなくて、日本のことももっと知りたいし。兄ちゃんとかフランス兄ちゃんとかスペイン兄ちゃん…アメリカにイギリスに…もっともっと色んな国のこと知りたいって思うよ。」
「…どうしてそう思うんだ?」
ドイツはちょっと意外そうな顔した。俺がそんなこと考えてるなんて思わなかったのかな。俺はみんなのこともっともっと知りたいって思うよ。だって。
「だってさ、それがさっきドイツが呼んでた本の答えだと思うからだよ。」
「本とは、世界を平和にするために各国がどのように協力するか、というやつか?」
「そうだよー。相手のことを知らないから怖いんだよ。俺だってドイツのことよく知らなかったとき、ドイツが怖かったよ。ドイツってデカイし威圧感あるんだもん。でもね、今は怖くないよ。ドイツが優しいんだって知ってるからさ。怖いって思ってる相手と協力なんて出来ないでしょ?一度戦うと、相手のことが憎くなっちゃうから、なかなか止めれないし。憎く思ってる相手のことなんて知りたくないから、相手のことは分からないままだよ。それの繰り返しで争いがなくならないんじゃないかなぁ。」
「それはそうかも知れないが…それだけが理由ではないだろう?」
「…そうだね。嫌になっちゃうよ。最近の戦争は理由が複雑すぎる。昔はもっとシンプルだったと思うのにな。」
「…そうだな。」
手元のカップに視線を落とすドイツは一体何を考えてるんだろう。
「俺はね…みんなで美味しいもの食べて、笑い合って、俺の大好きな人たちが傍にいてくれたら、それで幸せなんだよ。それが平和なんだって思わない?」
「皆がお前のように考えられたなら良いのかもしれないな。」
「うーん…でもね、結局みんなが望んでいるのってそんなに特別なことじゃないと思うんだ。毎日ご飯が食べられますように。家族や恋人や友人が笑っていられますように。ずっと一緒にいられますように。そんな当たり前みたいなことだと思うよ。」
「当たり前のような日常こそが幸せ、ということか?」
「そう。争いがなくったって、みんなが幸せだって思えないなら、平和って言えないんじゃないかな。」
ちょっと考えるみたいにドイツは目を閉じた。
「そう…なのかもしれないな。」
「ヴェー…だから俺は今とっても幸せなんだ。ドイツと友達になれて、こうしてお茶を飲みながら話が出来る。兄ちゃんやドイツや日本やたくさんの仲間がいて、一緒に美味しい物食べて、笑い合える。」
こんなにも当たり前みたいなことが、どんなに大切で幸せなことで、どんなに脆いものなのか、俺は知ってるから。遠い遠い昔に、また会おうね、って約束したあの子。あの頃の俺は、また会えるって信じてたけど、約束は果たされなかった。
「俺、幸せだよ。」
大好きな人たちが傍にいてくれるから。ドイツも同じ気持ちだと嬉しいな。
「ねぇ、ドイツは今幸せ?」
柔らかな日差しに輝く髪、穏やかに細められた目、少し赤くなった頬。
それが答えだと思っていいよね?