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前世を言うから然様ならだよ。

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道場は、シンとしていた。
明るい静謐が満ちた場に俺様は一言、失礼を申し上げます、と声を渡らせる。
軽い反響。それと、空気を割る槍の鋭い音。
背中が見える。紅いTシャツ。寒くないのかな、と少し思う。
旦那はいつもと変わらず、俺様に気付かない。
道場の玄関先で、気付かないかも、と苦笑つきで説明した二人を振り返る。

残像一閃。

振り返った俺様の眼には、竹刀の入った布袋を黙然と畳む片倉さんが一人。
ばっともう一度振り返る!

がしんっ!!

眼を見開いた旦那が、伊達ちゃんの竹刀を受け止めていた。
今日初めて見た旦那の顔が、呆然とした間抜け面ってのは何だか遣る瀬無い。

「Great to see you again. I have missed you !」
「・・・・・伊達、政・・宗・・・?」
「That’s right ! 元だけどな?」

俺様は、生まれて初めて、英語って便利な言語なんだなあと感心した。
静かな道場に響き渡った声は、正に真情そのままだろう。
なにせ、彼女はずっと待っていた。
伊達ちゃんは背中しか見えない。
けど、どんな顔をしているか、わかる、そんな背中をしている。
絶対に、笑っている。獰猛に、そして喜色に溢れた眼を爛々とさせて。

道場は旦那ひとりだった。
それを狙ってはいた。
平日の午前。普通は勤めている時間だ。
俺様たちは自由登校だから問題無いし、旦那も今日は大学の講義が無い。
けれど、片倉さんは今日、休んだんだろう。
伊達ちゃん馬鹿もココに極まれり。伊達さんちってこんなヒトばっかりなんだろうか・・・。
いや、武田も言えた義理じゃないけどさ?

がんっ!

鍔迫り合いを終えるように、互いの武器を弾いて距離を取る。
それで漸く、互いの全身が見えたのだろう。
旦那が更に驚愕に眼を見開く。
「伊達、どの?さん?・・・う・・え、お、おん?!」
「ああ、今じゃ女だ。政子と名付けられてる。けど、呼んだら三途の川で溺れてもらうぜ?」
「は、はあ・・え。ええ?」
・・・狼狽した旦那はともかく、三途の川の渡し賃さえ船頭に払えないほど、名前を呼ぶことは伊達ちゃんにとっては禁忌らしい。
ちろり、といつの間にか隣に立ってる片倉さんを俺様は横目で見た。
実は片倉さんは家族以外で唯一、伊達ちゃんの名前を呼べるのだ。
・・・お説教の怒りが深いときに。
俺様は一度だけ、その場に立ち会ったことがあるので知っている。
伊達ちゃんが揃いの青いボレロの上着を脱ぎ捨てた。
旦那が一目見て性別を理解したように、今日の伊達ちゃんはスカートだった。
膝丈のそれはフレアがたっぷりしていて、胴回りをボタンで締めている。
制服もそうだが慣れるとズボンより足が動きやすい、とは何時だったかの伊達ちゃんの言。
「ま、オレが誰だか解っただけで上等だ。このときを待ってたぜ?やりあおうぜ、Let’s Party !!」
がつん、と音を立てて竹刀が旦那に振り下ろされる。
状況がわからない旦那は戸惑ったまま二合打ち合い、それで油断が出来ない相手だと、とにかく体が反応したのだろう。
獣のように吠えると、すぐさま精彩を取り戻し自分からも打ち込んでいく。
・・・記憶より、二人とも稚拙だ。稚拙なのに、眼が離せない。
むかーしとおんなじ、踊るように、語らうように、いきいきと打ち合う。
「とりあえず片倉さーん、後で伊達ちゃんにお説教お願いしますよー。挨拶も無しで襲い掛かるとか何処の獣よ、お宅のお嬢サマ。」
「あの方をあんなにお待たせしたんだ、大目に見やがれ。」
しれっと言うから俺様は嘆息する。
そうだよ、道場入るや否や、ああなったのは、片倉さんが伊達ちゃんの辛抱堪んないだろうって気持ちを汲んで、控え持ってた竹刀を渡しちゃったからだ。
涼しい顔して、コノヒトだって伊達ちゃんと同じノリとアツさを持ってるんだった。
「そもそもお前も劇的な出会いがいいと言ったそうじゃねえか。」
「・・・よく憶えてたなあ。」
中二の話だ。伊達ちゃんが、電波受信しちゃった日の。
劇的に、ドラマチックなのがいいよね、とは言ったけど、当時の俺様は街中でばったりみたいな、もっと穏やかな出会いを朧げながら思ってた。
「けどコレ、劇的?ドラマチック?」
「さあな。」
お嬢様の趣味には理解が及ばない、と常々零している片倉さんらしかった。

がつん、がつん、ばしっ。

打ち合っている二人は夢中で、俺様は溜息を吐いた。
大体、竹刀と棒切れの槍でどうして、あんな重い音がするんだろう。
普通この道場じゃ竹刀はパシンバシンって響いてる。
旦那が誰と練習試合したってそうなのに、伊達ちゃんの剣術は随分と重厚らしい。
片目が無いというだけで公式試合に出られなかったのは、本当に勿体ない。
ルール決めた文部科学省だか教育委員会のヒト、ちょっとこの試合見てみたらいいよ、ホント。
「この道場は本当になんでもありなんだな。」
ぽつりと片倉さんが呟いた。
「うん、そう。個人の道場だから、しがらみとかルールとかあんまり無いよ。勝負する人たちでルールを決めるくらい。どうしてそう思ったの?」
「巻き藁があるからよ。」
「ああ、本当は弓用だけど、滅多に使わないよ?」
「お前が投擲に使ったりは?」
「・・・鋭いヒトってヤになるなあ。たまーにだけだよ。映画村とかでさあ、ここの道場の人たち、面白がって俺様に手裏剣買って来てくれるの。流派とか?全然無視でさ。」
「・・・今でも立派に忍者じゃねえか、それ?」
「・・・・・だって今更でしょ?此処、個人修行と実戦試合の道場だから指導者いないのよ。修行の仕方覚えてるの、それっくらいだし。あと剣とか槍とか随分前からやってるヒトばっかりだし?今から俺様が覚えて挑戦したってそういうのじゃ勝ち目無いんだもん。」
「負けず嫌いだな。」
「まーね。ダーツ上手だよ、おかげで。」

がしんっ!

また一際大きくぶつかった音がして、二人が距離を取っていた。
息を荒くして、睨み合っている。
汗が光って、体からは湯気が立つ。
どんだけ熱くなってんのよ、二人して。

「Hey, 防御がなってねえぜ?やっぱりそんな棒っ切れじゃオレの相手はheavy なんじゃねえのか?」
「伊達殿こそ、竹刀は扱いが面倒な様子。その調子では、6本持つなど将来的にも難しいのでは?」
「ハッ!一丁前に嫌味言いやがるじゃねえか。テメエが槍を一本しか持てねえみてえだから、合わせてやってんだよ。」
「それは忝い。非力な女性となられたらしい心遣い、新鮮に思いまする。」
「上等だテメエ、首の六文銭とってやる!!」

あ。伊達ちゃんが切れた。
ていうか、伊達方が、切れた。
隣の片倉さんがピシっていった・・・・・。
「・・・・・猿飛・・・。」
「いやー、たぶん、ぜんっぶ悪気は無いのよ?多分?」
「ンななぁ関係ねえっ!!」
「うわ、おっかなーいっ!」
地獄の底から這い上がってきたみたいな、低い声で唸るもんだから、俺様は警戒して、ゆらり距離を取る。
と、片倉さんが軽く眼を瞠った。
「・・・てめえ、現世じゃ普通に学生ヅラしてたくせに、根っからの忍じゃねえかっ!!」
「違うって、ここの道場通うようになってから身についただけだって!!」