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前世を言うから然様ならだよ。

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片倉さんの怒りは、俺様の距離の取り方というのが如何にも忍らしい変幻自在の動きだったからだろう。
ゆらり、ゆらゆら、ふらり、くらり。
惑わすように、捉えられないように、緩急が一貫しない残像さえ見えるような動き。
波に翻弄される枝葉のように、陽炎のように掴みどころが無い動き。
入門してからブロック上を歩いた成果だ。
「大体、思い出してからだって、俺様否定派だったのに今更、忍呼ばわりやめてくれないかなあ。」
「それが嘘くせえんだよ、なんだって否定しなきゃならねえんだっ?!」
「・・・あー。片倉さん、お嬢様至上主義だもんねえ。」
俺様は呆れたように見えないよう、気をつけて肩を竦めた。
「俺様の隣のうちね、実は前世持ちが一人居るのよ。で、何かあると寂しいって家族に不満を漏らすの。奥さんが可哀想でさ、俺様、ああいう風にだけはなりたくないなーってずっと思ってたわけ。」
「・・・誰のことだ?」
「・・・チェックしてないんじゃないかとは思ってたんだよね。俺様に気付いたのも、伊達ちゃんち遊びに行ってからだし。」
怪訝な顔の片倉さんが、怒気を鎮めた。
伊達ちゃん以外はどうでもいいんだろうけど、やっぱり前世に関わる人が増えると警戒するのは俺様のときからだ。
中一のとき、一度CDを返しに家まで行ったら、片倉さんは即座に俺様に気付いて、毛を逆立てるように警戒反応をした。
チカちゃんと一緒に遊びに行っても、そうだった。
警戒が薄れたのは、前世を思い出していてもいなくても、変わらない友人づきあい
をしていると理解されるようになってからだった。
「・・・うちの中学、校長がそうだったんだよ。森蘭丸。」
「なんだとっ!!」
片倉さんはカッと眼を見開いた。
「いや、だからさ、誰だって今は今って生きてるんだから警戒するようなことじゃないのよ。別に学校でだって特に接触なかったしさ?」
とぼけるように俺様はもう一度肩を竦めた。
俺様にはご近所づきあいがあって、それで色々と考える機会が多かったのは事実だけど。
でも、かの校長先生だって、結局は第六天魔王にしか興味が無いのだ。
しかも、その魔王だって漸く小学校に上がったくらい。
どうやら校長の定年退職までに中学には上がれないみたいだし、学区も違うようだし、電波受信して思い出すのなんか、もっと先。
・・・受信しちゃったらどうなるのか、ってのはちょっと懸念材料だけど。
「記憶は、あるのか?森には。」
「あるから寂しがってるんじゃない。まあ、アノヒト元服はともかく初陣が早かったから、昔から寂しがりって有名みたいよ?」
片倉さんは、またも怪訝な顔をしている。
意味がわからないらしい。
竹中半兵衛と違って、本当に伊達ちゃんの害になるような情報以外は積極的に集めていないらしかった。
「あのね、仮説っていうか、もう確信なんだけどさ。片倉さんは何時、むかーしのことを思い出した?俺様は一桁だったけど、片倉さんは十代とかじゃなかった?」
「・・・ああ。」
困惑気味の顔が、慎重に肯定する。
「電波を受信・・・ていうか、前世を思い出すのってね、どうも初陣の歳みたいなんだよ。書物は数えで記録したりしてるから、どうも誤差があるけど、生まれてからの日数で電波がくるみたい。毛利サマは会話の先読みするから誤魔化されちゃったけど、アノヒトまだ電波受信してないはずだよ。」
条件を開陳すれば、ぴたり、と静寂が広がった。
・・・あれ?
・・・・・なんか、あそこの手合わせしてたヒトたちまで、こっち見てない?
え、スポットライトなんか無いよ此処?
ていうか、二人とも、いつからこっちの話聞いてたの?
「・・・初耳だぜ?佐助。」
「左様。そなた、それでこの一年、某を監視しておったのだな?」
二人が、息を切らせたまま低い低ーい声で、俺様を見ている。
「・・え、やだなぁー、監視ってそんなわけじゃ、」
「で、その仮説とやらは中学の時にはもう呟いてたわけだが?高校三年間、ずっとオレにも黙ってたわけだが?」
「や、だって確信、そんななかったしさ?」
「オレが幸村がいつ思い出すかイライラしてたのは知ってるよな?お前とオレの友情について、ちょっと考えさせてもらわねえとならねえよなぁ?」
みしり、と竹刀を強く握ったのだろう音がして、俺様は冷や汗を流す。
伊達ちゃんは旦那と目を見合わせ、二人してダッとこっちに向かってきた!

当然、俺様は逃げ出した。
待てコラ!、待たぬか!、そんな声を背中で聞く。
騒ぎを聞きつけたお館様と、毒気を抜かれた片倉さんが取り成してくれるまで、くだらない鬼ごっこは続いた。
三人揃って正座させられて、俺様は叫んだ。

「もうっだから前世なんて言い出すと、ろくなこと無いんだよっ!!」

お館様は頷いて、それでもごちんっ、と俺様の脳天に鉄拳を食らわせた。
旦那と伊達ちゃんの溜飲を下げるためとはいえ、俺様は不貞腐れた。