東方無風伝 2
高速で飛来している為、風圧で着物と髪の毛が大きく波打つ。
眼下を見下ろせば、其処には鬱蒼と生い茂る森が見える。
目測で高度十メートル程の低空を魔理沙は飛んでいる。こんな距離だと、手を伸ばせば自然に生える木に触れることが出来るのではと錯覚してしまいそうな距離だ。
なんだか、こうやって箒にぶら下がって空を飛ぶと言うのにも慣れてきた気がする。
初めこそは、落ちないように必死になって全力で箒にしがみ付いていたが、今は自分の体重を支える最低限の力だけでぶら下がっている。
今では、こうやって辺りを見回す余裕まで有る。
……慣れとは怖いものだな。
「……ん?」
眼下に流れる森から顔を上げて前を見てみれば、大凡(おおよそ)三十メートル程先の場所に、一つの真っ黒な球体が浮かんでいた。直径二メートル程だろうか。丁度人がすっぽりと収まることが出来そうな大きさだ。
このまま飛行を続けていれば、『あれ』に接触すること間違いない。
「魔理沙、あれ」
「言われなくとも解ってるぜ。風間、これから揺れるかもしれないから、落ちないようにしっかりと捕まってろよ」
そう言う魔理沙は苦い顔をしていた。そのことから、『あれ』に対する不信感と警戒心が高まっていく。
了解、と魔理沙に短く返し、ぐっと箒を握る両手に力を込める。
黒い球体まで、後五メートルと言ったところで魔理沙は停止する。
「ようルーミア。今日も元気そうだな」
魔理沙はそう黒い球体に呼び掛ける。
「あら、その声は魔理沙?」
「博霊霊夢。巫子だぜ」
さらりと嘯(うそぶ)く魔理沙。
途端、黒い球体は消え去り、代わりに少女が現れる。
いや、黒い球体に潜んでいた少女が姿を現した、の方が正しいのだろう。
「やっぱり魔理沙じゃない」
金髪で、その頭には赤いリボンが巻かれているルーミアと魔理沙が呼んだ少女。
ルーミアは何故か両手を広げている。
「風間、あいつは弱っちいけど、あれでも妖怪だぜ。よく覚えておけよ」
ルーミアには聞かれないように小声で言った魔理沙。返事としては、先程と同じように短く了解とだけで返した。



