東方無風伝 2
捕まれば死ぬ。そう、これは命がけの鬼ごっこだ。
だからこそ、必死に走る。
段々と呼吸のペースが短く速いものに変わっていくのが解る。
耳に、頭の中に音が響く。
それは、全力で走っている為に荒々しい呼吸の音。 その音は、俺自身のものなのか、はたまた八匹の野犬のものなのか解らない。或いは、両方かもしれない。
それに気付いた時、俺は走る足を一回だけ、だん! と力強く踏んだ。その途端、頭の中に響いていた呼吸音が消え去る。
どうやらずっと走って体力を消耗したせいか、ぼんやりとしていたようだ。お陰で、今は少しばかり清々しい。気分的には。
我に返った途端、今まで大して気にしていなかった脇腹の痛みが、自己主張でもするように出てきたのだ。息も、凄く苦しくなってきた。
あのまま放心していた方が良かったのではと少しばかりの後悔。
「ははっ」
先程から、後悔してばかりだな、俺ときたら。
でも、大丈夫だ。笑う余裕だってあるんだ。
こうして我に返ったからこそ、考えることが出来る。
どうにかこの状態を解消できる方法を。
「うえっとぉい!」
考えようとした途端、階段に躓き転びそうになった。
なんとか転ぶことを免れたものの、今のは大きな隙を作ってしまったようで。
「ぎぃっ!」
それなりに距離を詰めていたようで、一匹の野犬が飛びかかってきた。
そいつは後少しと言うところで、足首を噛みやがった。
「は……なせ!」
強引に足首を前に持っていき、走り続けようとしたが、噛みついたそいつが重く、遅い動きとなる。
それは速度が落ちたということ。
「ってめぇら!」
それ我先にと、飛びかかってくる残りの野犬。
噛まれたら一溜まりも無い為、横に転がるように飛んで避ける。
「てめぇもいい加減離れろ!」
足首に噛みついたままの狼に怒鳴り散らすが、それに反論するように足首を噛み千切ろうと
首ごと振ってくる。
「おぅわ!」
足をぶんぶんと振られ、身体までもが引っ張れる。
身体が振られた先は、大階段の端。手摺も何もない階段の端に、落とされる。



