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affogato(サンプル)

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部屋に入ってドアが閉まった瞬間、ほんの数秒が待ちきれなかったとばかりに抱きしめ合った。灯りをつけることすらどうでも良くて、真っ暗な部屋の中でただひたすらに夢中になって唇を合わせ、舌を絡ませた。
まともに服を脱ぐこともできず、駆け込むようにしてもつれあいながらベッドルームへ飛び込むのが精いっぱいだった。
微かに残っていた二つの香りが混ざりあい、二人の間で新たな香りが生まれる。
互いの唇を奪い合うような激しい口づけを交わしながら、相手の服を引きちぎるようにして乱暴に脱がせていく。
とにかく早く裸になって素のままの肌と温度を確かめ合いたいのに、素肌を隔てる布地が恨めしかった。ボタン一つが、ファスナー一つが、やたらもどかしくて仕方なかった。気持ちばかりが急いてしまうせいで、余計に手間取ってしまう。
なんとか脱ぎ去ったワンピースとシャツを、落ちた先も確かめずにベッドの下へと放り出す。
露わになったクロームの白い素肌に、骸はごくりと唾を飲み込む。その細い首元には真珠のチョーカーが飾られたままだった。
裸で向き合うと、衝動に突き動かされた激しさが、少しの間だけなりを潜める。
夢中でキスを交わしたのと興奮とで既に荒くなった互いの呼吸ばかりが耳にうるさい。
滑らかなラインを描く胸元から脇腹を男の手のひらがなぞっていく。ひくりと彼女の体が震えたのに骸は楽しげに眼を細める。
「細いのもいいですけれどね、お前はもう少し肉をつけた方が良い」
そんな感想を口にしながら、骸の手のひらは再び胸元へ向けて戻っていく。
ほっそりとした体つきに似合わず、彼女の乳房は豊かだ。女性としてはとても魅力的なスタイルだが、ともすれば、ぽきりと手折ってしまいそうな危うさも覚えなくはない。
「もっとちゃんと食べなさい」
元々クロームは食の細い方であったから、彼の言うことも尤もであるのだが、素肌を晒して向き合ったこの状況にしてはいくらか色気に欠ける。
「でも、今日はたくさん食べたでしょう?骸さまと同じくらい」
少し拗ねたようにつんと唇を尖らせたクロームの頬をぺろりと舐める。どこか甘い味がするような気がした。
「そう、ここに居る間は僕の倍くらい食べればいい」
無茶を言う骸に、くすくすとクロームは面白そうに笑う。手を伸ばして彼を引き寄せると、軽く唇に口づける。
その拍子に再び火がついたのか、骸の瞳にぎらりとした欲望の色が灯った。
「そしてお前を太らせて」
触れあう吐息は熱を帯びていた。
「全部食べてしまいたい」
その言葉をなぞるように肩口に歯を立てる。肉食獣が獲物を捕食する様を真似た仕草は、本能の奥底に眠っている原初の興奮を呼び起こす。
いっそこのまま深く噛みつき、血も肉も、骨すらも全て食らい尽くしてしまいたい。それほど深く繋がりたいと、全て何もかもを己のものにしてしまいたいと、限りのない欲望が湧きあがってくる。
この柔らかな肉に衝動のまま歯を立ててしまったらどうなるのだろうと、そんな妄想に奇妙な興奮をかきたてられる。
「食べてください」
クロームの口からは拒絶ではなく、むしろ衝動を肯定する言葉が零れた。
それに促されるように、骸はクロームの胸元にむしゃぶりつくように顔を寄せた。
「なにも残さないで。全部、全部……」
骸の衝動がうつったのか、熱に浮かされたうわごとのようにクロームは懇願する。
己の乳房に吸い付く骸を離すまいと、しっかりと抱き抱える。食べられたいけれど、いっそこちらからも食べてしまいたい。
熱に浮かされて理性の消え去った頭の片隅で、それはできない事だと誰かが言っていた。できない事だとしても、何もかもが一つになって混ざりあってしまえば良いのに。心の底からそう思わずにはいられなかった。
どうしようもなく昂っているけれど、抱えた破滅的な衝動を叶えることのできないもどかしさが焦れったかった。
だからせめて一時だけでも体を重ねて一つになって、自分の元に縛り付けておきたい。
と、不意にクロームの胸元から顔を離すと、骸はベッド下へ手を伸ばし、そこに落ちていた何かを拾いあげた。
彼が手にしたのは、先ほどまで首に締めていたネクタイだった。細身のデザインのそれは、解かれてしまったままの状態では一見すると少し幅広の紐か何かに思えなくもない。
ネクタイを手にした骸を見て、ほんの少しだけ何かを期待するような光が彼女の瞳に灯った。
白い柔肌に血が滲むほど歯を立ててしまいたい乱暴な衝動が、その行動を促したのだろうか。骸の口元に、にやりといやらしさを含んだ笑みが浮かぶ。
「骸さま……」
彼の名を呼ぶ声は、不安や恐怖などには侵されていなかった。むしろこれから起きる出来事を予感し歓喜にうち震える響きであった。
ネクタイを手にしたまま、骸は再びクロームの上にのしかかる。
「ほら、手を出して」
促され、素直にクロームは両手を頭の上にあげる。もうこの先に行われる事は明白だ。
「そう。良い子ですね。とても……いい子だ」
子供を褒めるような口ぶりで、骸は手にしたネクタイでクロームの手首を縛っていく。
拘束はすれども、決して余計な跡など残らないように。彼女が痛みを感じることなどないように、絶妙の加減でしっかりとそれは結ばれた。
手首を擦る布地の感触にか、それともこれから起きるイレギュラーな展開への期待にか、クロームの息が先ほどよりも少し上がる。
「ほら、できた」
骸のネクタイはクロームの両手の自由を完全に奪う形でしっかりと結ばれ、拘束されたその姿は、それだけで男の征服欲を十分に満たす。





※以下本文にて……。という感じになります。

作品名:affogato(サンプル) 作家名:ヒロオ