鉄の棺 石の骸番外10~石の上の花~
不動遊星が、Z-oneと名乗る未来人を撃破して、もう数カ月が経つ。
Z-one一派の最終兵器・アーククレイドルは、WRGP決勝戦の直後、ネオドミノシティ上空に召喚された。マイナスモーメントをネオドミノシティに衝突させ、モーメントを地球上から抹殺する為に。
アーククレイドルは緩やかにシティに墜落し続け、一時はあわや衝突というところまで行った。アーククレイドル落としが成功していれば、シティは半径数百キロを巻き込んで消滅するはずだった。この恐るべき計画は不動遊星率いるチーム5Dsによって阻止され、アーククレイドルは幻のように消滅した。ネオドミノシティは彼らによって救われたのだ。
Z-oneと直接対決した遊星は、Z-oneの行いは未来からの警告であるとシティ全土や世界中に広く知らしめた。普通であれば一笑に付されていたはずのそれは、先のアーククレイドル事件で真実味を与えられた。これから先のモーメント研究は全て、未来からの警告を踏まえて執り行われることになる。
モーメントのマイナス回転を防ぐには。人類に滅亡をもたらさないようにするには。じっくり考える猶予を未来から与えられたとはいえ、人類に与えられた課題はまだまだ多い。
ネオドミノシティの中心部では、復旧作業が終わりに近づいていた。
不動遊星とZ-oneの決闘中、アーククレイドルから巨大な瓦礫がいくつもシティに落下し、大小の被害を方々で出してしまっていた。シティに平和が戻ってから、真っ先に行われたのが瓦礫の除去と破損した市街地の修復だった。ビル街の一部は、アーククレイドルから降ってきた巨大な瓦礫が激突し、結構な被害を出している。シティのランドマークであるKCビルも、アーククレイドルにぶつかって破損した。
瓦礫は細かく砕かれ、トラックに乗せられシティから続々と運び出されていった。シティ中が復旧作業に大わらわだった。だから、誰も気づくことはなかった。シティで起こったほんの小さな変化に。
――公園のベンチで休んでいた一人の母親に、幼い娘が満面の笑みで草花の花束を差し出した。
「お母さん、これあげる」
「あら、ありがとう。かわいいお花ね。どこに咲いてたの?」
娘は、あっちだよ、と草原を指差して教える。小さな指の先には、日の光を一心に浴びる真っ白な花々。ここ周辺ではつい最近まで見かけなかったはずの……。
アポリアたちが未来世界で見たあの草花が、ぽつりぽつりと芽を出し、白く可憐な花を咲かせている。公園で。ビル街の緑地で。道路の隅っこで。人家の花壇で。
荒れ果てた大地で懸命に生き延びていた草花は、アーククレイドルの瓦礫に乗って、この世界に種を零した。肥沃な大地と恵みの雨を長い年月の末にようやく手に入れたそれらは、ひっそりと、しかし確実にこの世界に根付こうとしている。
草花がどこからやって来たのか、誰も知らない。まさか、未来世界から零れ落ちてきた種だなんて、誰も考えはしないだろう。このことは、遊星さえも知らない話だ。
花は時折誰かに摘まれ、あるいは誰かに踏まれて一時姿を消す。しかし、草花が数多に散らせた種は、また別のところで新たな花を咲かせる。そうやって、それらは仲間を増やし、自らの領域を増やしていく。
人間は未だ、誰一人として気づかない。それでも、花はこの世界に根を張り、ただひたすらに生きていくのだ。
今日もシティのどこかで、白い花が咲いた。
(END)
2011/3/20
作品名:鉄の棺 石の骸番外10~石の上の花~ 作家名:うるら