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鉄の棺 石の骸番外10~石の上の花~

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「Z-one。旧モーメントの方は大丈夫なのか? 結構大がかりな修理だったが」
「あ、そうでした。その旧モーメント、先ほど試運転に成功したのです」
 Z-oneからは早速、嬉しそうな声で答えが返って来た。今にもその場でくるくる踊り出しそうな雰囲気だ。
「何、本当か」
「はい。これで、日常生活の方にもエネルギーが回せます。これからは、温かい料理も作れますよ」
 それは、アポリアにとってもいいニュースだった。今までは小型モーメントが主な動力源だったので、生みだせるエネルギーの量も限りがあった。貴重なエネルギーはコンピュータなど重要な機材に回され、日常生活は必要最低限を除いて後回しになっていた。なので、缶詰そのままや栄養クッキーで命を繋ぐ毎日だったのだ。
「材料が足りなくて、一時はどうなるかと思いました。うまくいって本当によかった。君が材料を集めに行ってくれたおかげです」
「いや、私はもっぱらボディーガードの役だったな。あれのほとんどはアンチノミーが見つけてきた」
「それでも、君は立派に仕事を果たしてくれました。だから、君のおかげでもあるのです」
 モーメントの修理には、当然ながら部品が必要だ。しかし、現時点で新しく材料を調達するのは困難を極める。人類がほとんど全て絶えてしまい、あらゆる流通はもちろんのこと、新たな部品の売買など期待できないからだ。やむを得ず、四人はサテライトやシティ遺跡を探索し、材料になるものをかき集めることにした。探索に出たのは、主にアポリアとアンチノミーだった。街に残されていたモーメント機器を見つけては分解し、必要な材料を持ち帰る。壊れたD-ホイールが見つかれば儲けものだ。D-ホイールからはダイン製の部品が手に入る。D-ホイールに必要不可欠だったダインは、今や貴金属や宝石よりも貴重な品だ。
 アポリアは機械に疎い訳ではない。銃火器同様、必要な機材は自在に動かせる。しかし、ばらばらの部品から機械を組み立てたり、一から設計図を書いたりするのは圧倒的に不得手だ。それについては、適任者が他に三人もいる。
 なのでアポリアは、探索に出かけるアンチノミーのボディーガードを買って出た。サテライトやシティ遺跡は、野犬などの外敵もはびこっていて危険地帯と化しているからだ。後にアンチノミーから機械の安全な分解方法を教わってから、材料収集に貢献できるようにはなったものの、アポリアは専らボディーガードに徹することが多かった。
 ついこの間なんかは大変だった。コンテナを抱えたアポリアたち二人を、気づけば野犬が群れなしてぐるりと取り囲んでいたからだ。銃火器を装備しているとはいえ、あれは多勢に無勢というものだった。あの日アポリアが悲壮な覚悟をしたくらいには。あの直後、Z-oneとパラドックスがバギーカーで救援に駆けつけて来なかったら、アポリアとアンチノミーは野犬の胃袋に収まっていた。
 あちらも人類と似たり寄ったりの運命なのか、あの日襲ってきた野犬共は、どいつもこいつもやせ細っていたような。
「……」
 あの日の情景を思い出し、アポリアは遠い目をした。あの苦難が報われる時がついに来たのか。途中で投げ出さなかった自分を褒めてやりたい。
「あー、でも」
「Z-one?」
「アーククレイドルを造る時に、確実に巻き込んでしまいますね、この花も」
 Z-oneが鋼鉄の義手でそっと花に触れ、申し訳なさそうにつぶやいた。
 アーククレイドルは、ここサテライトをモーメントの力で変形させ、らせん状に再形成して建造する。マイナスモーメントを使用し、ゼロ・リバース級のエネルギーを居城の形成と上空への浮上と城内の重力に振り分けるのだ。後は、過去世界に必要な回路を設置すれば、アーククレイドルを過去に出現させることができるらしい。それ以上の詳しい理論は、アポリアにはよく分からなかった。難しい理論や計算は、なるべく科学者コンビにお任せしたい。
 必要な機構が完成すれば、すぐにでもアーククレイドルの形成を始められる。そうなると、このサテライトの風景も見納めだ。
「せっかくですから、どこかに植え直してきましょうか?」
「いや、今からどこかに植えても、荒れた土地では枯れて終わりだ。他に零れた種が別の場所で芽を出していることを祈るしかないだろう」
「……そうですね」
 残念そうな手つきで、Z-oneは花を撫でた。名残惜しそうに立ち上がると、アポリアに帰ろうと促す。
 モーメントのところに戻る最中、Z-oneが何事かを思い出したようすで、ぽん、と手を叩いた。
「そう言えば、もう一つ用件がありました」
「何だ?」
「生活に必要な動力源を確保したのだから、この際、食事当番も決めておこうって話になりまして」
「気が早いな」
「でしょうね。私は、まだ早いのではと言ったのですが」
 その割には、Z-oneが一番楽しみにしてそうだ。本人は冷静な風を装っているが、さっきから義足の金属音が、いつもより軽やかに聞こえる気がする。アポリアは密かに思ったが、口には出さなかった。彼のご機嫌な様子は、傍から見ていると何だか楽しい。