ハッピー! バースデー
《 臨也の場合 》
もうじき、最近一番お気に入りのあの子の誕生日だ。
折原臨也は街で偶然見掛けたその子に声を掛けた。
「やあ帝人君。誕生日プレゼント、なにが欲しい?」
その子は年齢よりも幼く見える顔を僅かに硬くしながら答えた。
「臨也さんから貰いたいものなんて、特に思いつきませんから、要りません」
「遠慮なんてしなくていいよ! 俺は帝人君の大好きな非日常の世界で生きてる情報屋だよ? 他の誰にも手に入れられないようなものだって用意してあげられる。ね? ホラ、欲しいものを言ってごらん?」
その子にとって魅力的に感じられるであろう言葉を選んで誘ってみると、少年はなだらかな眉間に僅かに皺を寄せて考え込んだ。
臨也はこの少年に並々ならぬ関心があった。一見どこにでもいる普通の子供だというのに、一点突き抜けている部分のある彼が、この誘いにどのような返答をするのか、とてもとても楽しみでならなかった。
だから誕生日プレゼントを自ら選ぶのではなく、当人に直接訊ねることにしたのだ。
「遠慮しないで。ね? 帝人君は特別だからさ、なんでも欲しいものを手に入れてあげるよ?」
「――でしたら、静雄さんが欲しいです」
「……さあ帝人君、誕生日プレゼントに欲しいものがあったら言ってごらん? 遠慮しないで」
「ですから、静雄さんが欲しいです」
「…………」
胡散臭い笑みを貼り付けたまま、臨也は固まった。
彼にしては珍しいことに、相手の反応に対して頭が対処に遅れた。
「……ええと、それはどういう意味かな?」
「どういう意味もなにも、言葉どおりの意味でしかありませんよ」
「………」
言葉どおりの意味だとすると、帝人は臨也に静雄を手に入れてきてくれと強請っていることになってしまう。
「――いやいやいや、ないないない。帝人君の始めてのおねだりだけど、それはないだろ」
「つまり、臨也さんでは静雄さんを手に入れることは無理、ってことですか。――臨也さん以外の誰にもできないことだと思ったんですが、それじゃあやっぱり静雄さんは僕なんかの手の届かない特別な存在だったってことですよね……」
「……っ」
臨也の取り繕った笑みが引きつった。
その言い方では臨也よりも静雄の方が上みたいではないか。
そもそもあんな害にしかならないようなものを贈るなんてありえないから『ない』と言っているのに、アレが特別な存在だから手に入らないなんて勘違いをするとは、それもまたありえない。
「いや待って、そもそもなんで帝人君はあんなモノ欲しがるのさ!」
「え? 臨也さんは、僕の好きなものを知っているんじゃなかったでしたか?」
「………」
そう。知っている。さっきも口にした。
「……非日常……」
「です」
少年ははっきりと頷いた。
非日常。
確かにどれだけ邪魔でどれだけ有害でどれだけ気持ち悪かろうと、あのバケモノが非日常な存在であることは確かだろう。
「……ふ…っふふ……」
少年の突き抜けているところが気に入っていて、臨也の誘いに見事なまでの意表をついた返答をくれた。
ここまではなんの問題もなく、むしろ臨也の期待以上に素晴らしい。正に逸材だ。
「ははっ……だったらさ、次は俺が帝人君に返す番だよねぇ、確かに」
そうだ。ここで返さねばならない。
彼の大好きな非日常の世界に生きる素敵で無敵な情報屋、折原臨也らしい答えを。
そして彼の期待に応えてみせて、あのバケモノと臨也のどちらが上なのかをしっかり教えてやらねばならない。
「あっははははは!! そうだよねえ! ああ、わかったよ! 誕生日には帝人君の望むモノを贈るよ! とはいえかさばるからね、あんなモノ帝人君の部屋には置ききれないだろ? だからもっと帝人君の気に入るように、もっと非日常な状態にして贈ってあげるよ! バケモノの生首なんて、運び屋ですら持っていない特上の非日常だもんねえ!!」
臨也は高らかに笑いながらポケットからナイフを取り出し、帝人に背を向けた。
すみません、完品でなければ意味がないんですが、という少年の声は耳に届いていなかった。
もうじき、最近一番お気に入りのあの子の誕生日だ。
折原臨也は街で偶然見掛けたその子に声を掛けた。
「やあ帝人君。誕生日プレゼント、なにが欲しい?」
その子は年齢よりも幼く見える顔を僅かに硬くしながら答えた。
「臨也さんから貰いたいものなんて、特に思いつきませんから、要りません」
「遠慮なんてしなくていいよ! 俺は帝人君の大好きな非日常の世界で生きてる情報屋だよ? 他の誰にも手に入れられないようなものだって用意してあげられる。ね? ホラ、欲しいものを言ってごらん?」
その子にとって魅力的に感じられるであろう言葉を選んで誘ってみると、少年はなだらかな眉間に僅かに皺を寄せて考え込んだ。
臨也はこの少年に並々ならぬ関心があった。一見どこにでもいる普通の子供だというのに、一点突き抜けている部分のある彼が、この誘いにどのような返答をするのか、とてもとても楽しみでならなかった。
だから誕生日プレゼントを自ら選ぶのではなく、当人に直接訊ねることにしたのだ。
「遠慮しないで。ね? 帝人君は特別だからさ、なんでも欲しいものを手に入れてあげるよ?」
「――でしたら、静雄さんが欲しいです」
「……さあ帝人君、誕生日プレゼントに欲しいものがあったら言ってごらん? 遠慮しないで」
「ですから、静雄さんが欲しいです」
「…………」
胡散臭い笑みを貼り付けたまま、臨也は固まった。
彼にしては珍しいことに、相手の反応に対して頭が対処に遅れた。
「……ええと、それはどういう意味かな?」
「どういう意味もなにも、言葉どおりの意味でしかありませんよ」
「………」
言葉どおりの意味だとすると、帝人は臨也に静雄を手に入れてきてくれと強請っていることになってしまう。
「――いやいやいや、ないないない。帝人君の始めてのおねだりだけど、それはないだろ」
「つまり、臨也さんでは静雄さんを手に入れることは無理、ってことですか。――臨也さん以外の誰にもできないことだと思ったんですが、それじゃあやっぱり静雄さんは僕なんかの手の届かない特別な存在だったってことですよね……」
「……っ」
臨也の取り繕った笑みが引きつった。
その言い方では臨也よりも静雄の方が上みたいではないか。
そもそもあんな害にしかならないようなものを贈るなんてありえないから『ない』と言っているのに、アレが特別な存在だから手に入らないなんて勘違いをするとは、それもまたありえない。
「いや待って、そもそもなんで帝人君はあんなモノ欲しがるのさ!」
「え? 臨也さんは、僕の好きなものを知っているんじゃなかったでしたか?」
「………」
そう。知っている。さっきも口にした。
「……非日常……」
「です」
少年ははっきりと頷いた。
非日常。
確かにどれだけ邪魔でどれだけ有害でどれだけ気持ち悪かろうと、あのバケモノが非日常な存在であることは確かだろう。
「……ふ…っふふ……」
少年の突き抜けているところが気に入っていて、臨也の誘いに見事なまでの意表をついた返答をくれた。
ここまではなんの問題もなく、むしろ臨也の期待以上に素晴らしい。正に逸材だ。
「ははっ……だったらさ、次は俺が帝人君に返す番だよねぇ、確かに」
そうだ。ここで返さねばならない。
彼の大好きな非日常の世界に生きる素敵で無敵な情報屋、折原臨也らしい答えを。
そして彼の期待に応えてみせて、あのバケモノと臨也のどちらが上なのかをしっかり教えてやらねばならない。
「あっははははは!! そうだよねえ! ああ、わかったよ! 誕生日には帝人君の望むモノを贈るよ! とはいえかさばるからね、あんなモノ帝人君の部屋には置ききれないだろ? だからもっと帝人君の気に入るように、もっと非日常な状態にして贈ってあげるよ! バケモノの生首なんて、運び屋ですら持っていない特上の非日常だもんねえ!!」
臨也は高らかに笑いながらポケットからナイフを取り出し、帝人に背を向けた。
すみません、完品でなければ意味がないんですが、という少年の声は耳に届いていなかった。
作品名:ハッピー! バースデー 作家名:神月みさか