迷惑なプレゼント
(おまけ)
「…あの、じゃぁ『おめでとう』って言って欲しいです。」
臨也さんは見るからに顔を歪めて「は?絶対嫌だね。」と、呆れたように言う。
ガンッと頭を叩かれたような衝撃を受けて、茫然とした僕に、臨也さん「はぁ、」と大きくため息を吐いた。
「もう少しさぁ、こう、気の利いた事言えない?俺がわざわざ祝ってあげるって言ってるんだから。」
その態度は絶対祝う気無いだろう、とは思っても言わないが、僕は知恵を絞る。
「だいたい見てよ、この姿。帝人くんが俺に電話もくれないからヤケになって仕事入れたは良いけどその間もしかしたら君から電話がっ?とか、思ってたら見事油断してね。この俺が顔を怪我したんだよ、そう、君のせいで。」
果たしてそれは僕のせいだろうか?まぁ、臨也さんの中では僕のせいなのだから反論はしないでおこう。
「…無事に帰ってきてくれたんで、それだけで良いです。」
なんて、健気に気取ってみても、この人の前じゃ効果が無い。
「はぁ?何それ当り前だよ。この俺が凡人の帝人くんより早く死ぬわけないでしょ?だって1人で残されたら帝人くん生きてけないもんねぇ。」
・・・反論はしないでおこう。
「帝人くんが今最も欲しがってる物は何?俺はそれを届けに来たんだから。」
僕は驚いた。
臨也さんはどこから見ても手ぶらだったから僕へのプレゼントなんて用意してないと思っていたが、そうではないらしい。
ちゃんと用意してきたと、そう言っている。
僕はまた少し悩んで、一つの答えに辿り着いた。
まさか、いや・・・
間違っていたら死ぬほど恥ずかしいが、臨也さんなら言わせようと思うくらいするはずだ。
僕は何度か口を開いては閉じた。
「早く言わないと、残り2分15秒だよ。」
臨也さんは困っている僕を楽しそうに見降ろす。
機嫌が直ったことは喜ばしいが、ああ、くそ。
「い、臨也さんが欲しい、ですっ。」
真っ赤になって俯く僕に、臨也さんからの反応が何も無くて、そろそろと顔を上げる。
臨也さんは完全にフリーズしていた。
「・・・臨也さん?」
僕の問いかけに臨也さんは「ふっ、」と噴き出した。
「ああ、もう、ほんっと帝人くんて思い通りに動かないよねぇ。なんでいつも俺の予想の斜め上を行くんだろ!?」
「良いよ、残り1分30秒は俺は帝人くんの物だよ。」
にっこりと、臨也さんは綺麗に微笑んだ。
「だけど、明日になった途端、帝人くんは俺の物になるんだから。」
・・・へ?
「ホラ、そこら辺に落ちてる誰からかもわからない奇妙なプレゼントについてもじっくり聞かなきゃいけないしね。」
残り1分弱、僕がこの場から逃げ出した方が得策じゃないかと思ったのは仕方が無いことだった。
(も一つおまけ)
「これから忙しくなるから、しばらく会えないかも。」
俺がそう言った時、帝人くんの表情に影が差した。
俺は内心ほくそ笑んで「じゃぁね。」と帝人くんの部屋を後にする。
と、見せかけてドアのすぐそばに控えていた。
『待って下さ、あ、臨也さん。』
慌ててドアを開けて俺を追おうとした帝人くんはドアのすぐそばに居る俺を見て、ほっと胸を撫で下ろすはずだ。
『どうしたの?』
『あ、あの、し、しばらくって・・・どれくらいですか?』
『しばらくはしばらくだよ。』
飄々とした俺の答えに切羽詰まった帝人くんはこう切り出すはずだ。
『あ、あの、もうすぐ僕の誕生日なんです!・・・その時は、帰ってきてくれますか?』
『・・・。』
『あ、無理なら良いんです。我儘言って、ごめんなさい。』
『仕方ないね、帝人くんの頼みだから。』
『え?』
『特別にその日は帰ってきてあげるよ。』
にっこりと笑う俺の優しさに、帝人くんもうっとりするはずだ。
そう、計画は完璧、
だったのに。
10分経過。
20分経過。
30分経過。
出てこねぇのかよっ。
ああ、もう!
だから帝人くんて・・・大好きだこのやろう。