植物系男子
その0
最悪だった。
今日は何かと苛々する1日だ。先ず仕事先で失敗した。やりすぎてトムさんに怒られた。幽から貰った服を一着駄目にした。吸おうと思った煙草が切れた。そして何より、奴に出会った。
いつもより苛々していた俺は相当暴れまくった。先ほどの上司の言葉などとうに頭から飛んでいる。わかっているのに抑えようがない自分の力にも腹が立つ。
結局奴は取り逃がした。手にしていた一通の標識は根元が変な風に折れ曲がっている。右手を離せば、ガコンと暗い路地に音が響く。
最悪だ。煙草も吸えねぇ。
溜息をついてポケットに手を突っ込み、とぼとぼと歩き出す。いつの間にかこんなところまで来ていたらしい。この池袋でもあまり足を運ばない道を、静雄はひとり歩いていた。
ふと、目の前に現れた緑に目が留まる。こんなところに花屋なんてあったのかと何となく足を止めた。
もう夜になろうかという時間なのに、店の前には様々な花が鎮座していた。普段花なんて見ない俺にとって、思ったより値段が安いのに驚愕する。近寄れば独特の緑の匂いが漂った。たまにはこういった自然に触れるのもいい。元より、嫌いじゃなかった。
触ると折ってしまいそうだから眺めるだけに留める。だが、何となくやった視線の先に飛び込んできた文字に、思わず瞬きを繰り返した。
“苛々しているあなたへ”
鋭いトゲをいくつも持つそれは、まさに今の俺に打ってつけだった。