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植物系男子

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その1




久しぶりの池袋。天気は快晴。ところにより自販機、なんて考えて、俺は人ごみを歩いた。
さて、今日は会えるだろうか。彼は俺がここへ来るとわかるらしい。高確率で見つかるのはそのためだ。くせぇくせぇなんて言って、まるで犬のようだといつも思う。勘で人を探り当てるなんて野蛮すぎてとても真似できない。
怪物とはよく言ったものだ。シズちゃんは大嫌いなはずの暴力を何よりも持て余していた。
あぁ何だろう。彼にぴったりな絵画があった気がする。確か、フランシスコ・デ・ゴヤの『巨人』。人間とは比較にならないほどの巨人が聳え、人々が逃げ惑う。その圧倒的なまでの存在に、見るものをどこか不安と恐怖にかきたてる一枚は、彼にお似合いだ。
ふと、視線を感じて前を見据える。巨人、とまではいかずとも、人波より頭ひとつ飛び出た彼がいた。
ああホラ見つかった。真っ直ぐにこちらを見ている。
今日は何を投げるのだろうか。いつもはモノが飛んできて気付くから、俺から先に気付いたのは珍しい。
一定の距離を保ったまま足を止める。平和島静雄は、ゆっくりと動いた。いつものように声を荒げることなく、口元に不敵な笑みを浮かべず、標識に手をかけようともしない。ただポケットから煙草を取り出すと、面倒臭そうに白い煙を吐き出した。

(…なにそれ)

俺は自分の機嫌が急降下していくのがわかった。おもしろくない。まさか気付いていないわけじゃないだろう。現に彼の目は人ひとり殺せそうなほど睨みつけてきている。
彼が動かないから、いつもは逃げていく通行人は誰もふたりに気付いていなかった。人影でシズちゃんの顔が見え隠れする。
おもしろくない。再度心の中で吐き捨てて、俺は自分から彼に近付いた。

「気持ち悪いなぁ」

開口一番呟いた。見上げるように視線を飛ばしても、彼は睨むだけで口を開こうともしない。

「どういう風の吹き回し?シズちゃんが突っ立ってるだけなんて」

見上げても彼は動かなかった。ただくわえていた煙草を取ると、煙を吐いたあとに言い捨てる。

「手前もう、池袋に来んな」

それだけで、彼はくるりと背を向けた。しばらく俺は固まっていた。言われた言葉はいつも通りのそれだが、全く違う。
あれは誰だ。本当に平和島静雄なのか。彼は間違っても、こんな大人しい男ではない。
舌打ちを押し殺して俺は奥歯を噛むと銀色の刃を取り出す。隙だらけの背中に向けて放ったそれは、瞬時に反応した彼が素手で掴んだ。首だけで振り向いた彼の瞳には確かに嫌悪感が露になっていた。なのに、怒りが感じられない。カランと音を立ててナイフが地に落ちる。少しは切れたのか、赤い雫がその横にふたつほど落ちた。

「どういうこと?」

納得がいかなくて声を上げる。聞いていない。こんなのは、聞いていない。
気持ちが悪い。吐き気すら込み上げる。気付けば俺は、生まれて初めてと言っていいほど酷く睨みつけていた。

「…もう来んな」

再びそう口にして彼は歩き出す。煙が後を引いて消える。
つまらない。おもしろくない。こんなことがあってはならない。
爪が食い込むほど拳を握り締めると、俺も彼に背を向けた。
なんだ。何があった。誰だ。俺の知らないところで、何が彼を変えたのか。
頭の中でループする言葉に舌打ちをひとつする。
気分が悪い。最悪な気分だった。


作品名:植物系男子 作家名:ハゼロ