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植物系男子

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その16




珍しくぱっちりと目が覚めた。随分深く眠っていたような気がする。清々しくて思わず身体を起こして伸びをする。が、不意に腰に重いものを感じてぎくりと身体を強張らせた。
そろりと隣を見れば、腕を投げ出してくうくう眠る情報屋の姿があった。見慣れないそれに首を傾げ、はっと気付く。
そう言えばこいつの寝顔を見たのは初めてだ。いつもこいつは俺より遅く寝て早く起きる。珍しいこともあるもんだと、その顔をまじまじと眺めた。
好きだとか愛してるだとか散々言われた。そのくせ俺に手を出すことには躊躇していた。
なんでもキスひとつで花を咲かせたあのサボテンのことを気にしているらしかった。これ以上のことをすればどうなるかわからないと、お互いそんな口が聞ける状態じゃないにも関わらず戸惑っていた。
俺がその程度のことで死ぬわけがない。それは奴が一番良く知っているはずだ。

(あー…)

止めよう。なんか恥ずかしくなってきた。脱ぎ散らかしたパンツを適当に穿いて、喉が渇いたと冷蔵庫へ向かう。
開けたそこにはプリンが並べられていた。ひとつ取り出して、いつものパックがないことに気付く。そういや牛乳切らしてたんだっけかと思い出し、脇のミネラルウォーターに手を伸ばした。
臨也が買ってきたものだろう。パキリとキャップを開けながらリビングへと戻る。
ごくりと喉を鳴らしてペットボトルを煽った。テーブルにプリンを置いたところで、横のサボテンに目がいった。
何か変化があるかと思ったが、特に何も変わっていなかった。こいつには散々振り回されたが、今思えばこいつのおかげでここまでやってこれたようなもんだ。
たまにはいいだろうと、ペットボトルから水を注いだ。
カラカラに乾いていた土は、直ぐに水を飲み込んでいった。






あれから特に大きな出来事もなく、比較的平和な日々が続いている。どっと笑いが起きるテレビの横で、平和島静雄は彼が気紛れに買ってきた化け物であるサボテンに水を遣っていた。俺が買ったはずのペットボトルをジョウロ代わりにして、とくとくとくと音を立てていた。
いくら大きいからといって、サボテンに毎日500ミリリットルの水は遣りすぎではと危惧するのだが、どういうわけか鉢から水が溢れたことは一度もない。
今日も1本空にしたところで、サボテンはみるみる萎れていった。

「あっ、クソなんで枯れんだよ手前は!」

ぐしゃ、とボトルが潰れる音がした。静雄がその力でもって握りつぶしたのだ。
水が入ってなくてよかったと、俺は彼を眺めながら思う。

(わかってんのかな。いま苛々してるって)

俺はそっと笑みを零した。
サボテンが萎れていくにつれ、静雄の感情は少しずつ戻っていった。ガンを飛ばしたり、何かの拍子に物を壊したり、人のプリンをこっそり食べたりと。
新羅やセルティでさえ殺せないと判断したサボテンが、何故急に枯れていったのかはわからない。だが俺にはそんなものはどうでも良かった。
頬杖をついたまま、池袋最強と呼ばれた男を見上げる。

「シズちゃん」
「アァ!?」
「好きだよ」

途端に、固まった静雄はカァッと顔を真っ赤にしてくるりと視線を逸らす。
うるせーだの何だのと聞こえてきて、思わず俺は破顔した。
言えば言葉を返してくれる。想いを伝えれば反応が返ってくる。こんなに素晴らしいことはない。
そっと立ち上がって、まだ顔を背けるシズちゃんを押し倒した。床に潰されたペットボトルが跳ねる。
静雄もまた床に頭をぶつけたらしいが、痛みに鈍感なので怪訝そうな顔をしただけだった。

「手前、いきなり何する」

無駄口を叩く唇を塞ぐ。静かになった部屋で、ゆっくりと舌を絡ませれば、床に投げ出されたままだったシズちゃんの腕が首に絡んできた。ぐっと引き寄せられ、もっと深くなる。
その感覚に泣きそうになる。笑ってもいい。俺は、キスひとつで未だにこれだ。
天国なんてものがあるのなら、きっとこのことを指すのだろう。
あぁやっぱり死にたくないなと、俺は考えるのであった。


作品名:植物系男子 作家名:ハゼロ