みんなといっしょ!
「そうでしょ? わが組の癒し系ですから。…まあ、怖いところはいくつかありますけどね」
「…ああ。それはオレも知ってる」
「そうか、保健委員でしたもんね」
それは毒関係。薬にも劇薬にもある毒。喜三太が育てている毒虫関係もそれによく関わっていたのだ。
「ま、癒し系は癒し系だからな」
「そうですね…」
夏の夜の精霊は、朝になればいなくなってしまう。精霊と巫は別れを告げる。そこで喜三太は少しだけいたずらをする。乱太郎の頬にキスをしたのだ。乱太郎は驚きながらも笑いながら喜三太から姿を消した。
「…あらら」
「喜三太ってば…」
「遊んでるね!」
伊助と庄左エ門は苦笑い。しんべヱは普通に笑っていた。喜三太がするであろうことを予測していたらしい。
そして、舞は秋へと変わっていった。
秋は三治郎。
扇を紅葉に見立てながら乱太郎と舞っていく。乱太郎も自分の扇ん持って遊ぶように待っていく。
三治郎の衣装には紅葉の紅色が使われていた。サラサラの髪は一つにまとめられ。それは紅葉のかんざしと秋の華を形どった髪留めで作られていた。
「あれは、しんべヱ作?」
「髪留めはね。かんざしはほとんど左近先輩。でも、乱太郎のは作らせてくれたよ」
庄左ヱ門がしんべヱに聞くとそう返って来る。
「しんべヱも趣味でいいから和小物作ればいいのに」
「頼まれたらね。今はおシゲちゃんと乱太郎専用だし」
「おシゲちゃんはわかるが何故、乱太郎?」
「乱太郎ね、あの髪の長さでしょ?仕事中邪魔になるらしくて。だから、髪留めどきどき作ってあげてるの」
庄左ヱ門はそういえばと思う。乱太郎が時々可愛い髪留めをしていたのを。
「あれ、しんべヱ作だったんだね」
「そう。乱太郎が気に入ってくれたからさ」
ニコニコと嬉しそうに笑う。
「今回は左近先輩に感謝だよ」
舞う二人に目をやりながら、しんべヱは自分の作品達がそこにいることを喜んだ秋は儚くて、季節はすぐに過ぎてしまう。巫はそれを哀しそうにする。だが秋の精霊は笑いながら、巫を撫でた。そして、自分が持つ色を巫に渡す。それはまた会おうという約束。巫はその約束に必ずと笑いながら去っていった。秋の精霊はそれを見送った。
そして、舞台は真っ白な冬に移動した。
実の所、舞台の替えは力自慢の何人かで動かしていた。
「舞台が代わるぞ」
「おう」
「あ、きり丸。その紐引っ張って!」
「団蔵、まだ早いって」
「おーい。冬だから雪降らせて〜」
てんやわんやの舞台裏だ。
冬の舞台は静かに始まる。兵太夫がやる冬の精霊は最初は白を乱す巫に敵意を現す。だが、巫の優しさに触れ凍っていた心が溶かされていく。兵太夫の衣装は白と紫。サラサラの髪はポニーテールにしてあった。そして、かんざしではなく、髪留め。桔梗をあしらったものをいくつか留めていた。
「さすが、兵太夫。綺麗さは一番だな」
「黙ってればね」
綺麗なものにはトゲがある。そんな言葉がよく似合う兵太夫だ。
「伊達に作法の委員長はやってないか」
「だね」
冬の精霊は春が来る前に消える。巫は悲しむ。だが、冬の精霊は笑う。出会えて嬉しかったと。あなたと会えて楽しかったと。だから、笑ってという。また、次の冬に会いにいくからと。巫は頷き笑った。
そして、四季がまた春へと戻るのだった。
最後に乱太郎だけの舞が踊られる。扇と剣を手に乱太郎は舞う。
「さて、クライマックスだ」
庄左ヱ門な言葉に舞台は真っ暗になる。そして、一斉に七色に光輝く。そこには巫の乱太郎、春の精霊の伏木蔵、夏の精霊の喜三太。秋の精霊の三治郎、冬の精霊の兵太夫がいた。
拍手喝采とはこのことだろう。客席からは拍手がなりやまなかった。 それぞれが舞台から客席にお辞儀をした。
そして、その村の儀式は終わった。戻った乱太郎は神主から多大な感謝を受けた。
「ありがとう! とてもよかったよ」
「ありがとうございます」
「お友達もありがとう。とてもよかったよ。本当にありがとう」
「いえ、当たり前のことをしただけですから」
庄左エ門が笑顔でそれに答え、は組全員が笑顔で答えた。
「お礼といってはなんだが。これを皆に渡すよ」
そう言われて渡されたものは、御守り。
「人数分あるよ。今年もよい年でありますように」
神主がそういって去っていった。
「終わったね!」
乱太郎の言葉に皆頷いた。
「乱太郎」
左近と久作が側にくる。
「久作先輩、歌ありがとうございました!」
「いや、お前らの役にたったならいいさ」
「すごくよかったです」
「ならいい」
「乱太郎、ありがとうな」
「左近先輩」
巫姿の乱太郎を左近が撫でる。
「お前達のおかげでいい祭になったよ。村人も楽しんでいた。は組に頼んで正解だったよ」
「こちらこそ、素敵な衣装をありがとうござました」
「僕も左近先輩の衣装のお手伝いが出来て嬉しかったです」
伊助がいうと、左近も。
「お前ときり丸のおかげでこっちも助かった」
二人が手伝ってくれなければ作ることも出来なかった。
「しんべヱもありがとうな。お前の小物があってこそだったよ」
「えへへ。でも、左近先輩のかんざしもすっごく綺麗でしたよ!」
左近の言葉にしんべヱも笑った。
「三治郎、喜三太、兵太夫も綺麗だった。伏木蔵もありがとうな」
四人もいい笑顔だ。
「左近先輩、久作先輩」
「なんだ?」
「ああ」
そこに、は組全員と伏木蔵が先輩二人をみて言った。
「左近先輩! 久作先輩。ありがとうございました!」
その言葉に二人も後輩の言葉に笑顔で答えた。
そして、このお祭りは終わりを告げる。
この後、乱太郎の舞姫姿は先輩方にも届く。
それでまたひと騒動あるのはまた別のお話。
おまけ
「乱太郎」
「きりちゃん」
「ご褒美ちょうだい!」
「そうだね。約束だしね」
きり丸はそういって乱太郎にくっついた。
「ん? なあに?」
「今日1日、オレと一緒にいてくれたらそれでいい!」
そういってギューッと乱太郎を抱きしめる。
「そんなことでいいの?」
「いいの」
「結構、無欲だねぇ。きりちゃん」
「そうか? 絶対そんなことはないと思うけど」
乱太郎のことでは誰もが無欲になどなることは出来ないであろう。知らないのは本人だけ。
「らんたろー」
「はいはい」
ごろごろと膝枕をしてもらい、きり丸は上機嫌。そこにきたのは同じ部屋のしんべヱ。
「あー、きり丸だけずるーい」
「ご褒美だからいいんだよ」
「えー、じゃあ僕も〜」
そういってしんべヱは乱太郎の背中にぎゅーっと抱きついた。
「えへへ。暖かーい」
「もう、しんべヱも甘えたさん?」
「うん!」
乱太郎に甘えることはすごく暖かい。
「ね、きり丸、しんべヱ」
「なんだ?」
「なあに?」
「ありがとね」
そういって、二人の頬に軽いキスを乱太郎は送った。
この後、は組全員と伏木蔵に乱太郎のキスは送られる。
いつもいつもずっと一緒だから。
だから、感謝の気持ち