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【DRRR】ありふれたカップルの顛末【トムシズ】

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 一月も半ばにさしかかったこの日、静雄の機嫌は上々だった。
 珍しくゴミ箱も標識も、人も投げ飛ばさなかった日。
 仕事終わりに事務所に寄れば社長に目玉を丸くされたが何も気にならなかった。
 少し前を歩くトムに「今日はよくやったな」と、先程頭を撫でてもらったので機嫌は更にうなぎ登り状態だった。
 鼻歌交じりに歩いていると振り返ったトムが「えらく機嫌いいべ」と笑いかけてくれたので、静雄は少し顔を赤らめた。
「そ、そんなことないっす」
 鼻を擦って顔を逸らす。笑われたことに更に顔に熱が集まっていくのを感じた。
「しっかし、寒いなー」
 大きく体を震わせると肩を竦めたトムは両手を擦り合わせてなんとか暖を取ろうとしている。
 確かに今日は寒い。季節は冬なのだから当たり前のことなのだが、今日は一段と冷え込んでいるように静雄もトムも感じていた。
「こんな日はあったかいもん食いてぇなー」
「そっすねー」
 擦った所為か寒さの所為か、鼻の頭を赤くしながら静雄は相槌を打つ。
 トムが言うには露西亜寿司は先日行ったので今日は違うものが食べたいらしい。
 食に関して特にこだわりのない静雄は今日もマクドナルドで良いと思っていたのだがそれは即答で却下された。
「静雄ー、お前最近マックばっかで栄養偏ってんべ?」
「そんなことはないと思います、けど……」
 語尾が弱々しいのが静雄の自信のなさを表している。
「でも、その……俺体だけは丈夫なんで大丈夫っす」
 眉頭を寄せたトムは明らかに不服そうだ。
 顎に手をあてて暫く思案していたトムは突然手を叩くと静雄に指を突きつけた。
「鍋だ! 野菜も肉も食べられて尚且つあったまる! 鍋食うべ!」
 そう言ってニカッと笑ってみせるトムに反論することなど出来なかった。ただその眩しい子供のような笑顔に押されるように静雄は頷いた。


 話した結果、二人っきりの鍋パーティーは静雄の家で行われることとなった。
 近所にあるスーパーに入りかごを持った静雄にトムがカートを差し出す。
 まずは生鮮コーナーに向かうとトムはあれやこれやと静雄に問いながらかごに放り込んでいく。静雄は終始「そっすね」「いいと思います」と肯定の返事しかしない。
 そんな調子で「ほれほれ次行くべ」と、トムの一声で促されてはスーパーをぐるぐると回り次々鍋の材料を揃えていった。
 ビールとつまみも欲しいと言ったのはトムだった。静雄の家にも以前トムが来たときに置いていったものが残っていたがそれとは別の種類を今日は飲みたいらしい。
 つまみコーナーを真剣に吟味しているトム。通路の端によって邪魔にならぬようにしていた静雄の耳に不意に声が聞こえた。
 何となしにそちらへ顔を向けてみれば、子連れの家族が居た。
 園児らしき女の子はお菓子を必死に抱えて嬉しそうに母親に声を掛けていた。お目当てのものを買ってもらえるのが嬉しくて仕方がないのだろう。
 別にその家族に、女の子に特別興味を抱いたわけではなかった。ただ気まぐれに見ていただけだった。
 しかし、静雄に気づいたその女の子はその視線に嬉々としていた表情をみるみるうちに強ばらせ「やべえ」と思った時には盛大に泣いてしまった。
 母親は先程まで上機嫌だった娘の変化に目を丸くし、直ぐにあやし始めた。そして、その原因であろう静雄に気づき娘同様顔を強ばらせてしまう。
「ん? どした、静雄」
 女の子の泣き声に気づいたのかトムは「徳用パック」とデカデカと書かれたスルメを手に静雄に問うてきた。
「いや、その……泣かすつもりはなかったんすけど……」
 決まりが悪く家族から顔を逸らしてボソボソと言うと、トムは直ぐに察したのかスルメを預けると親子の元へ歩み寄った。
 泣き続ける娘を抱きかかえながら母親は明らかに警戒心を丸出しにしている。因縁でもつけられると思っているのだろう。
 だが、トムは至って柔らかい物腰で母親に話しかけた。
「すんません。あいつも悪気があったわけじゃないんですけど、あの通り図体がでかいんで娘さんは怖かったみたいですね、本当すんません」
「え、あの……いえ……」
「嬢ちゃんも悪かったな-。折角お菓子買ってもらって喜んでたのに」
 ほい、と落ちていたお菓子を拾うと女の子に差し出す。
 すんすん、と鼻を鳴らしていた女の子はお菓子とトムを数度交互に見ると恐る恐る手に取った。
「あのお兄ちゃん見た目ほど怖くないから安心しな」
 髪の毛を可愛く二つに結んだ頭を優しい手つきで撫でながらそう言うと、女の子はトム越しに静雄をチラリと見やった。
 何か声をかけるでもなく、静雄は軽く会釈をした。
「ちょーっと不器用だけど、本当は優しいんだよ。俺みたいにな」
 そう言ってニカッと歯を見せて笑ったトムに女の子は漸く僅かだが笑みを零した。
 それからもう一度母親に謝ったトムは女の子に手を振って元に戻ってくる。
「あの、トムさん……」
「この徳用スルメもかごに入れといてくれや」
「…………はい」
 礼を言われるほどのことじゃない。謝ることの程じゃない。
 そういうことなのだろう。普段静雄がトムにかけている迷惑に比べれば何てことない出来事だ。
 だけど、静雄は嫌になった。不器用で無愛想で無骨な自分が。
 同時にトムはきっと将来良い父親になるのだろうな、とも思った。
 それに胸を痛めている自分が更に嫌になった。

◆ ◆ ◆ ◆


 勝手知ったる何とやらで「おじゃまします」ではなく「ただいまー」と冗談めいた物言いでトムは静雄の部屋に上がった。
 預かったトムのジャケットと自身のベストをハンガーに掛ける。
 ビールを冷蔵庫に入れて、鍋に使う材料を台所に立つトムに手渡していく。「ビールも一本くれ」と言われて首を傾げると、「飲みながら陽気に作りてぇんだよ」と答えた。少し考えた後に静雄は素直にトムにビールを一本差し出した。
「そんじゃパパッと作るからお前さんはコタツでぬくぬくしとけ」
「はい」
 言われるがままにコタツのスイッチを入れて体を潜り込ませる。しかし、付けたばかりのそれは当然温かくもなく、暫くコタツ布団で体をくるんで寒さをしのぐ。
 徐々に温まってきたコタツに静雄の表情が自然と緩み、テーブルの上に顎を乗せて温もりを心地よく楽しむ。そのとき、突然影が落ちる。何だ、と見上げるとトムが覗き込む形でビールを差し出してきていた。
「ほれ、静雄も飲んで待っとけ」
 受け取った静雄の頭を撫でるとトムは再び台所へ戻っていった。いつの間にか良い匂いが漂ってきていた。

 それからテレビをつけて適当なチャンネルを見ていた静雄の耳に陽気な声が届く。
「お待ちどうさん」
 そう言ってトムは予め用意していた鍋敷きの上に土鍋をドンッと置く。入れ替わりに静雄は立ち上がると容器と箸を持ってくる。
 トムはまた数本ビールを冷蔵庫から取り出してそれを静雄と自分の前に置いた。
「準備完了! じゃあ、いただきます」
「いただきます」
 行儀良く両手を合わせると二人は湯気と食欲をそそる匂いを漂わす鍋に手を付けた。
 熱い具に息を吹きかけて口に入れて、更に口内ではふはふとその熱さを楽しむ二人。
「美味しいっすね」