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【DRRR】ありふれたカップルの顛末【トムシズ】

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 白菜を食べた静雄がにっこりと笑いかけると、肉をよそっていたトムが破顔する。
「鍋にして正解だったべ? トムさんの言うことは大抵正しいんだよ」
「そっすね」
 この場の温もりは鍋のおかげでも、コタツのおかげでもない。
 二人で作り出した温かい空気を静雄は鍋よりも、コタツよりもじっくりと感じて喜んでいた。


 男二人で鍋を囲めばあっという間に無くなってしまう。出汁も残して雑炊までしっかりと頂いた。
 一息吐いて腹をさするトムは満足げだ。静雄は鍋と容器、箸を台所へ持っていき洗っている。
 作るのはトム。片付けるのは静雄。二人の間にいつの間にか出来た暗黙の了解だった。
「静雄ー。こっちくるときにビール持ってきてくれー」
「まだ飲むんすか? トムさん結構飲んでますよね?」
「ばっか。まだ全然だべ」
 そう言うトムの手には空の缶が。更にテーブルにも既に食べながら開けた缶が数本乗っている。静雄も飲んでいたとはいえ、その殆どがトムだ。
 出し渋っていると突然静雄は背中に重みを感じた。言うまでもなくトムだった。
「ちょ、トムさん!?」
「いいからビールくれよー。トムさんのこと好きならビールくれよー」
 完全に酔っ払いだ。欲しいなら別に自分で冷蔵庫から出せばいい。それなのに静雄の絡んでくるとは、トムはビールが欲しいと言うより静雄に構いたいのだろう。
「分かりました分かりました! 持っていくんで離れてくださいっ」
 顔を俯かせて大声で言うと今度はその体を抱き締めて「ありがとー。大好きだぞー」とのたまった。
 それでもトムは離れずじまいで、静雄は背中に大の大人の男を背負いながら洗い物を済ませ、冷蔵庫からビールを取り出し――もう一本、もう一本とトムの要望に応えるうちに抱えるほどになってしまった――コタツに辿り着いたあとも結局は静雄はトムを背負ったままの状態になった。
 後ろから抱き締められる形で収まっている状況に静雄はビールをトムに渡しながら問うた。
「あの……トムさん? 寒くないっすか?」
 静雄自体大きい体をしている。その後ろにいるトムはコタツに足の半分だけが何とか収まっている体勢だ。これでは温かいはずのコタツも意味がないだろう。そう思っての問いだった筈なのに。
「んー? 静雄があったかいから問題ないぞー」
 言いながら静雄の背中に頬ずりし出す始末。
「…………酔ってますね」
 溜め息を吐いて、敢えて言わなかった台詞を吐く。
「酔ってるなー」
 開き直られた。
 こうなっては実力行使をしない限り離れないだろう。が、静雄は基本的にトムに対して大胆にでれないところがある。よって結局この状態を静雄は黙って受け入れるしかなかった。



 鍋を食べているときは真剣に見ていなかったテレビを二人はいつの間にやら食い入るように見ていた。
 画面に映っているのは幼い子供が母親に買い物を頼まれ、それを四苦八苦しながら、ハプニングに見舞われながら、それでも懸命に使命を果たそうとする姿だった。所謂「はじめてのおつかい」だ。
「おー、頑張ったなー。えらかったべ」
 姉妹が時に転けて泣きそうになった妹を姉があやしながら。買う物を書いていたメモを無くして半泣きになってしまった姉を妹が励ましながら。最後には家から出て子供達の帰りを心配げに待っていた母親の元へ走って帰り着いた。安心したその姉妹は途端に泣き出してしまうが、それを母親が優しく抱き締めて「よく頑張ったね。ありがとう」と頭を撫でてやっている。
 その光景を見つめながらトムが呟いたのだ。心底優しい声で。
 同じく静雄もその光景に食い入るように見つめていた。が、胸中ではトムとは全く違うことを考えていた。
 勿論姉妹が無事に家に辿り着いたことに感動はしたし、安堵もした。しかし、それとは別に複雑な――色を付けて例えるなら黒い靄が胸の中で渦巻いていた。
 泣いて母親にあやされている姉妹を見てシンクロさせてしまったのだ。スーパーで泣き出してしまったあの女の子と。そして、それをあやしたトムとを。

 疎外感。

 あの時の静雄の心境を一言で表せばそれだった。
 自分がどうすることも、どうすればいいかも分からなかった状況でトムはそれが当たり前とばかりに女の子に手を伸ばした。
 空気が違った。
 仕事でもプライベートでも感じたことのない空気――雰囲気だった。知らないトムがそこにはいた。
 そして、それを引き出したのは間違いなく自分ではなくあの子だった。

 ああ、本当に情けない。
 子供に嫉妬したことがではない。
 トムが自分のものだと勘違いをした――勘違いをしてしまうこと自体が情けなく、そして馬鹿らしかった。


「…………トムさんって良いお父さんになりそうっすね」
 唐突な発言だった。
 テレビに釘付けだったトムが咄嗟に反応出来ないぐらい唐突で脈略のない。
「……いきなりどした?」
 酔っ払っていたことも忘れたように手にしていたビールを脇に置き、静雄の顔を覗き込もうとした。しかし、それは静雄自身がその顔を手で覆い隠すことによって阻まれた。
「ただちょっと思っただけっす」
「ああ、この番組のせいか? うーん、確かに子供は可愛いと思うけど俺が別に良い父親に」
「なれます。なりますよ」
 言葉を遮られたことも、断言するその言葉もどちらにも驚いたらしくトムは目を見開く。
「トムさん優しいし、マメだし、女の理想って感じだろうし。それで出来た子供をきっと大事に大事にするんです」
 顔を覆っているせいで籠もった声で静雄は淡々と続ける。感情が見えない。トムがどうすればいいのか惑うような口調だった。
「こんなところでこんな風にしてるのが間違いなんです。本当なら可愛い彼女に鍋作ってもらって――この場所にいるのは俺じゃないんです」
 自分は思っているより酔っているのだと、冷静な部分の静雄は思う。でなければこんな言葉を言うはずが――言えるはずがなかった。

「トムさんが――好きだって言うのは俺じゃない」

 この言葉は全て二人の関係を壊すものだと知っていたから。肝に銘じて声に出さないようにしていた言葉だから。
 手の隙間から涙がつたい落ちながら、掠れるような声で言ってしまった。
「………………じゃあ、お前は俺が誰に好きって言えばいいって思ってんだ?」
 それまで沈黙を保っていたトムがそこで漸く口を開いた。
「誰って……それは可愛い彼女……」
「可愛い彼女ってなんだ? どんな女が俺には合うんだ? いや、女じゃなくてもいい。誰が俺の相手ならお前は納得するんだ?」
 静かな声だった。この状況には似つかわしくないぐらい落ち着いて、一層冷ややかとさえ言えるぐらいだった。
 静雄は気づく。トムは怒っているのだと。何故怒っているのかまでは分からなかったが。
「別に俺が納得するとか関係ないっすよ……」
 つたい落ちる涙は止まらない。酷い顔になっているであろうから手を離すことも出来ない。同時にそれはトムがどんな表情をしているのかも分からないということだ。――後ろから抱き締められている体勢では元より難しいが。