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【DRRR】ありふれたカップルの顛末【トムシズ】

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「今俺が付き合ってんのも好きだって思ってんのも静雄だ。その相手が別れ話まがいのことを言ってんだ。だったらせめてお前が納得出来る奴と俺はくっつくよ。結婚すればいいんだべ? 子供ができればいいんだべ? そんでその子供の相手を、良いお父さんをすればいいんだべ?」
 捲し立てるように言い終えたトムは静雄の手を強く掴むと、無理矢理に顔からそれを除けようとした。
 反射的に力を込める。当然力関係的にトムが静雄の力に勝てるはずもない。うんと寸とも動かないその手にトムは痺れを切らした。
「顔を見せろ、静雄」
 いつにない。いや、初めて自分に向けられたかもしれない強い口調に静雄の体がビクリと反応する。
「俺はお前と別れねえし、これからもそんなのねえよ」
「……それは、今だけで……」
「もしお前がどうしても別れたいって言って、それで別の奴と付き合うっていうなら俺は全力で邪魔するよ。大人げねえぐらいに」
 尚も手を引っ張る力は緩まらない。その力こそトムの気持ちだと言わんばかりの強いものだった。
「お前の相手になる奴は未来永劫俺だけでいいんだよ。俺以外の奴なんて認めねえし、納得しねえ。お前はどうなんだよ? お前はどんな奴なら納得すんだ」
 静雄が思うトムの理想の相手。漠然とは想い浮かぶ。

 優しい雰囲気で、家庭的で、おしとやかな女性だろうか。
 それとも逆に少し気が強く、凛とした女性だろうか。

 幾つも思い浮かぶ。脳裏にシルエットが浮かんでは消える。
 そう、理想の相手は思い浮かぶ。しかし、それと納得するかどうかは別問題なのだ。
 納得するということは即ちトムと別の相手が愛し合うことを了承すること。
 そんなこと。
「…………出来ないっす」
 小さく呟くと、静雄はゆっくりと力を抜き、顔から手を離した。
 現れた顔は涙で濡れてぐしゃぐしゃになった――尚も涙を零し続ける子供のような表情だった。
「いや、です……。トムさんが誰かと付き合うとか……トムさんが誰かに好きって言うのは嫌っす」
 しゃくり上げながらも発する言葉は静雄の本心だ。
 それもまた静雄が声に出すまいと封じてきた気持ちだった。言えばトムの迷惑になる。重荷になるとしてきた『独占欲』だった。
 掴んでいた手をトムは尚も力強く握り締めていた。そして、その手を自身の頬に添える。
「やっと言ってくれたな」
 先程までの口調が嘘のようにそれはとても優しかった。同時に安堵したような息も漏れる。
 体を自身の方に向けろと言われて静雄は言う通りにする。対面する形でトムは静雄の金色の前髪を優しくかき分けると、充血した目元にそっとキスを落とす。
「あんま不安にさせないでくれ。な?」
 眉を下げて困ったような笑みを浮かべてトムは言う。
「すんません……すんません……」
 鼻水を啜りながらトムのおでこに自身のそこをコツンと合わせる。
「なあ、静雄。今はこれで勘弁して欲しいんだが、一応これが俺の気持ちと約束だ」
 そう言ってトムはズボンのポケットから何かを取り出した。
 開いた手の平の中にあったのはオモチャの指輪だった。露店で売っているような安物の指輪。しかし、静雄はそれを見たことがあった。
 最近、いや、今日の昼間だ。路上で売られていた手作りのアクセサリーを暇つぶしに覗き込んでいる時だった。

『そういやー昔こういう指輪を渡して結婚の約束だーとかっておままごとしたべ?』

 腰を下ろしていたトムは静雄を見上げながら楽しげに言ったが、静雄自身はそういう思い出がなかったので曖昧にしか答える事が出来なかった。
 その時トムが手にしていたのが今ここにあるこの指輪だったのだ。

「いつの間に……」
「お前が先に歩き出した隙に買ったべ」
「でも、なんでそんなもん」
「そりゃあこうする為に決まってるべ」
 そう言って大きな静雄の左手を取ったトムはその薬指に指輪を嵌めようと、した。
 が。

「…………入らねえな」
「…………入らないっすね」

 当然と言えば当然だ。
 元より女性用で作られているであろうこの指輪が男のごつごつした静雄の指にはいるわけがないのだ。
「く、くくく、はははははははははは」
「ぷっ、はは、ははははははははははは」
 同時に噴き出した二人はお互いの体をバシバシと叩きながら大声で笑い続ける。
 マヌケだ、と静雄が言えば、お前の手が大きすぎる所為だ、と責任転換するトム。
 楽しく、おかしく、愉快で二人は笑いが止まらない。
「あ、もしかしたら」
 思いついたようにトムは今度は静雄の小指にその指輪を嵌めようと試みた。
 いて、痛いっす。と半ば無理矢理ではあったが何とかそれは静雄の小指に嵌った。
「良かった。嵌ったべ」
「なんか血が止まりそうな気がするんですけど……」
「大丈夫大丈夫! その内伸びて指に馴染むべ」
「いや、普通指輪は伸びないっすよ」
「静雄なら大丈夫だ! 頑張れ!」
 意味の分からない応援をされながら静雄は改めて自身のそこに嵌っている指輪を見つめる。
 手作りで安物で偽物で、それでも。
「俺の気持ちだけはほんもんだ」
 胸中を汲んだらしいトムが言う。
 左手をそっと取ると指輪にキスをする。

「ずっとずっとお前が、静雄のことが好きだ。これが俺の気持ちと約束の証だ」

 泣きそうだ、と思った頃には涙が出ていた。
「お、俺も……好きです。ずっとずーっとトムさんのことが好きです」
 そう言って普段は自身からしない静雄がトムの唇にキスをした。
 瞠目したトムは、しかし微笑むと直ぐにそのキスに答えた。


◆ ◆ ◆ ◆


 翌日、役所に婚姻届を貰いに行った二人は帰り道にあった昨日とは別の露店で今度は静雄が指輪を買った。
 嬉々とした二人をサイモンが何かあったのかと冷やかし、露西亜寿司で食事をするとトムの家に帰り着く。
 そして、婚姻届に二人の名前を書き――夫の欄をトムで妻の欄を静雄が書いたのだが、静雄は恥ずかしさから書き損じてしまった。予備の一枚があって良かった。――静雄が買った指輪をトムのやはり小指に嵌めた。
 昨日飲み過ぎたからとビールを控えて茶を飲んでいたトムが「そういえば」と話を切り出した。
「良い父親って話だけどよ」
「…………なるべく掘り返して欲しくないっすけどね」
「まあ、聞けよ。あれさ、将来的に養子を貰ってっていうのも有りだと思うんだよ」
「はあ……」
「でも、俺的にはそんなことしなくても俺ってば良い父親になれる気がしてるわけ」
 コタツの向かい側に座っていたトムはもそもそと静雄の隣に移動してくる。
 トムよりも図体のでかいその体を抱き締めるとニヤリと笑う。
「お前が赤ちゃん言葉とか使ってくれりゃあそれでオーケーだべ」

「………………良い父親じゃなくてただの変態っす」

 素敵な夫で、良い父親で、ちょっぴり変態なトムとその妻、静雄はその日永遠の愛を改めて誓い合った。
 じゃれあう二人の左手の小指には鈍く光る偽物の宝石と、そしてきらきら光る本物の愛があった。