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ぐらにる 争奪2

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研究施設での学習カリキュラムというのは、それほどタイトなスケジュールではない。午前中に、講義のようなものがあって、午後から実習があるか、自習ということになっている。学びたくてやってくる人間に対して行われている学習プログラムだから、手を抜けば簡単に抜けるが、それでは身にならないから、参加している人間は、かなり真剣だ。
 何かしていないと暇だという性格なので、とりあえず、これでも、と、ティエリアが提案したという程度のものだから、ロックオンには楽なものだ。ある程度の知識はあるし、新しい部分の理論さえ理解できれば、実習する必要もない。何より、普段はハロがいて、演算なんかはハロがちょちょいのちょいとやってくれるから、その部分はする必要もないからだ。
 午前中の講義が終わったから帰ろうか、と思っていたら、エーカーに掴まった。食事を一緒にしようと誘われたら、まあ、大人しくついて行く。
「あんたは、午後からの実習に参加するんだろ? 」
「ということは、姫は、サボタージュということか? 」
「サボりじゃない。理論部分だけでいいから、必要じゃないんだ。」
「ふーん、さすが、SEということか。午後からの予定は? 」
「いや、別にないよ。まあ、買い物はするかな。」
「では、エスコートは是非、私を指名していただきたいな。」
「あんたは実習も必要だろ。」
「姫のためなら、別に、その部分は自習するだけでいい。きみとの貴重な時間のほうが重要だ。」
 いや、そう言われても、買い物と言ったところで、シャンプーなんかの新製品をスーパーでチェックしたり、スメラギたちの好きそうな酒を探したり、という、ごくごく庶民的な買い物だ。荷物持ちには刹那がいるし、わざわざ、この気障ったらしいのと出かけるような要件ではない。ついでに、たぶん、刹那が部屋に居座っているだろうから、今夜は食事を一緒するのも、ご勘弁というところだ。
「仕事の一環なんだろ? ユニオンの軍人さん。」
 嫌味たっぷりに、そう言ったら、くすっと笑われた。
「これは自費でね。今の私は溜まりに溜まった有給休暇を消化中だ。だから、このカリキュラムをクリアーしなかったからと言って、軍からペナルティがあるわけではない。」
 さあ、では出かけようと、さっさと立ち上がる人の話を聞かないエーカーに、ロックオンのほうは、こめかみに手を置いている。どうあっても、会話を成り立たせることはできないらしい。
「具合が悪いのか? 姫。それなら、私のところで休むといい。」
 ここで、さらにお姫様抱っこされそうになった。人の話を聞かないだけではない。たぶん、一般常識なるものも、どこかへ捨ててきているらしい。見た目は金髪の癖っ毛で、少し身長は低いものの、確かに白馬の王子然とはしているから、容姿だけなら、女性は誘われただけでついていくだろう。だが、自分は、男であって、華奢というわけでもない。それを、公共の場所で、お姫様抱っこしようとする段階で、おかしな人認定確実だ。

・・・いや、いいんだけどさ・・・・でも、朝帰りとか、できなさそうな気が・・・・

 どう考えても、あの利かん坊が大人しく朝帰りを待っているはずがない。相手の名前が判明しているから、ホテルを調べるのも簡単だろう。そうなると、乗り込んでくる。下手すると、「駆逐する。」 とか叫びつつ、得意のナイフで攻撃してくるに違いない。この自己中の口を軽くする方法として、一夜の相手ぐらいは、別に問題ではない。今のところ、気になるのは、連合軍が組織は壊滅したと判断してくれたかどうかということだ。もし、まだ捜索されているなら、警戒態勢は維持する必要がある。それも、捜索が形式的なものなのか、本気なのかも問題だ。その辺りを吐かせたいロックオンとしては、この誘いに乗りたいところだが、さすがに、刹那にバレるような明け透けなことはやりたくない。今日は、やめておこうと判断した。
「いや、ひとりで帰れるから。」
「せめて送らせて欲しい。」
 ぐだぐだとついてくるエーカーを、どこで引き剥がそうかと考えつつ、施設の玄関を出たら、白い車が止まっていて、運転席が開いて、知った顔が出て来た。

・・・え?・・・・

「ロックオン、どうかしたのですか? 」
「・・あ・・ああ・・・ちょっと頭痛が・・・」
「それはいけませんね。とりあえず、うちで休んでください。そちらの方、付き添いありがとうございました。この方は、私の大切な方ですので、ここからは私が預かります。」
 ひょいっとお姫様抱っこで、助手席に座らされたので、唖然として声が出ない。なぜ、こいつが、ここにいる? というか、なぜ、ここで拉致られるんだ? という辺りで混乱している。その間に、シートベルトされて、シートも少し倒された。
 ようやく声が出たのは、クルマが発信して、しばらくしてからのことだ。
「どういうことだ? あんた、紅龍さんだったよな? 」
「ティエリア・アーデより正式に救援要請を受けました。留美様よりは、私のほうが効果的だということでしたので、そのように演技させていただきましたが? お聞き及びではございませんでしたか? 」
 ええ、お聞き及びじゃございません。というか、救援要請って、なんの救援? という辺りで停滞している。
「えーっと、何の救援ですか? 」
「あなたが、ユニオンの軍人にストーカーされているということでした。」
「あーまーそうなんですが、これって、組織の問題ではないんですが? 」
「実行者たるマイスターの一人が、精神的苦痛を受けるのは、組織としても問題であると思われます。ティエリア・アーデからは、そういうことで要請がありました。留美様も、それには納得しておりましたので。」
「それほど大袈裟ではないんです。・・すいません、ティエリアは俺から、きつく叱っておきますんで、どこかで下ろしてください。」
「いえ、そうも参りませんようです。例のストーカーが、ちゃんとストーキングしておりますので、これから、しばらくはクルマを走らせます。」
「げっっ。」
 驚いて、背後を振り返ったら、確かに、二台後ろ辺りにタクシーがいる。こちらが道を曲がると、あちらも同じように進路変更してくる。「おりますでしょ? 」 と、紅龍が尋ねるので、「はい。」 と、頷くしかない。
「気付いてないフリで、お願いいたします。」
「はあ。」
「ロックオン・ストラトス、この後の予定は? 」
「いや、大した用事はないです。」
「では、少し付き合ってください。ストーカーを、諦めさせる方法は、ふたつです。ひとつは、法的処置で強制的にやめさせること。もう、ひとつは、自分には望みはないのだと徹底的に知らしめること、です。」

 ・・・・それはわかるけど。どうするつもりだよ? ・・・・・

 というか、あそこまで執着が強いとは知らなかった。まさか追いかけてくるとは思わなかったのだが、確かに、ストーカーというのには、該当しているかもしれない。
「でも、あんたさ。あのお嬢様の護衛の仕事があるだろ? 」
「それは、刹那・F・セイエイが、私の代わりを務めてくれているはずです。」
「刹那が? 」
作品名:ぐらにる 争奪2 作家名:篠義