かぐたんのぷちぷち☆ふぁんたじぃ劇場Q2
「んでオマエは?」
おっさんは顎をしゃくって眼鏡少年を促しました。
「え〜、ボクですかぁ〜?」
何を本気でテレているのか、眼鏡少年はやたらと身体をぐねぐねさせました。天パのおっさんと少女の冷ややかな目線にもまるで気付いていない様子です。と、そのときでした。
「ヨメ候補ならここにいるわよッ!」
――ババーーン!! ガタのきた事務所のドアを8センチピンヒールに蹴破って、ヅラ……じゃないもともとロンゲのにーちゃんがすっかりクセになってしまったボディコンシャス女装子スタイルで意気揚々と現れました。
「!」
デムパを呼んだ覚えはない、三匹は電光石火のチームワークで招かれざる異形の者をただちに簀巻きにして表に放り出しました。
「……んっとぉ〜、ボクの好みはですねぇ〜、」
仕切り直しで眼鏡少年が意見しかけたところ、
「シンちゃん!」
ドアの外れたふきさらしの入り口を塞いで立つひとつの影がありました。よほど急いで駆けてきたのか髪はボサボサ、履き潰した草履の鼻緒は無残にちぎれ、よれよれの半纏の肩は荒い呼吸に上下しています。
「マ夕゛オさんっ……!」
顔を上げた眼鏡少年は青ざめ、息を飲みました。天パおっさんとアルアル少女は、半眼の無表情に並んでソファに鎮座していました。
「何しに来たんですか……?」
ヒゲグラサンのおっさんから目を逸らし、苦しげに横を向いて眼鏡少年が言いました。突っ立っていたおっさんがその場にガバと土下座しました。
「頼むっ! 私とっ、やり直してくれっ!!」
「……」
呆気に取られた眼鏡少年の顔が、たちまちかあっと上気しました。
「無理ですっ……! 今さらそんなっ……、終わったんだ……、夢の時間はとっくに終わったんですよッ……!」
少年が腿に固く握りしめた拳は怒りのためかそれとも他の感情か、小刻みに震えていました。おっちゃんは地べたに伏せたまま少年に詫びました。
「わかったっ、私が悪かったっ! もう深酒はやめるよ! 度を超えた下ネタも言わないし、そこのおじょうちゃんにカンフーシューズでげしげし踏まれてイヤッフー!したりも決してしないッ! 誓うよっ!!」
――だからもう一度だけ、お願いだ私を信じてくれ! 半ベソに鼻水まみれでおっちゃんは訴えました。
「……帰ってください……、」
少年は喉から低く押し出す声に言いました。
「シンちゃんっ……!」
なおも食い下がろうとするおっちゃんに、少年の中で必死に耐えていたものが弾けました。
「帰れよ! できもしない約束なんかして、これ以上ボクを幻滅させないでくれっ!」
語気を荒げて吐き捨てると、少年はおっちゃんに背を向けて逃走しました。が、この事務所には出入り口がひとつしかなかったものですからすぐに引き返してきました。
「……スイマセン、ちょっとそこ避けてください、」
土下座しているおっちゃんの前に立つと、抑揚のない声に少年は言いました。
「あっ、ハイ……」
少年の見えない威圧に押されるように、おっちゃんはそそくさ道を空けました。少年はゆっくり表に出ると、錆びた階段をカンカン下りていきました。途中でズコッと、一段草履を踏み外した音がしました。
「……ま、アイツもどーよーしてるみたいだし、」
ソファで腕組みしていた天パのおっさんが言いました。
「今日のところはいったん引くヨロシ、」
呆然としているグラサンヒゲのおっちゃんに向かってアルアル少女も言いました。
「――あーでも、」
すっくとソファを立ったアルアル少女がおっちゃんを振り向きました。
「踏んで欲しかったら踏むアルけど?」
――あとですこんぶ代ね、少女は突き出した手を無邪気にひらひらさせました。
「……」
グラサンおじさんはしばらくじっと考え込んだあと、
「おっ、おながいします……!」
苦しげに吐き出した息とともに土下座頭を深々下げて、そのまま倒れ込むように地面にデコをめりめりめり込ませました。
(……。)
――……人生って何アルか、思わぬところで予期せぬ切り替えレールにハマって想像していたのと全然違う方向に猛スピードで運び去られてしまう、果たしてヒトの意思だけでそれを止めることができるのか、あるいは効かないブレーキ搭載込みで人生はかもしれない運転なのか、おっさんのくたびれた後頭部めがけてえいやとカンフーシューズを振り下ろしながら、今日もしみじみてつがくするアルアル少女なのでした……、ちなみに眼鏡少年がしばし傷心の放浪に出ているあいだ、よろずやではグラサンおっちゃんをさんざ無給でこき使ってじむしょのドアとソファ直してLEDに電球替えて、ついでにためまくってた家賃もとりあえず三カ月分ばかし払えたので、めざせ!持参金付き寿退社大作戦!の件はしばし保留となりましたとさ、メデタシメデタシ♪
【16】眠らぬ街の美少女
梅雨明け前の寝苦しい夜のことでした。
おんぼろじむしょ兼住宅のうっすいせんべい布団の上でシチュエーションにそぐわぬ絶世の超絶美少女姫がうんうん寝返りをうっていました。
「……眠れないアル、」
少女はばっちりビカーンと目を覚ますと、わりかしバリアフリーなカンジにふすま一枚隔てた部屋に寝ていた天パのおっさん従者を叩き起こしにかかりました。
「起きるアル、私眠れないね、」
――何ならこのまま喧噪の不夜城に繰り出してトッ込みパーリー☆やらかすね、
「……」
おっさんは寄る年波でこのところただでさえ寝つきが悪いのです。ようやっとで平和に寝オチした人間の身体を夜中にガスガスよーしゃなく揺さぶってくるひじょーしきな娘に、
「……その話だいぶ前に本家でやった、」
おっさんは寝癖の下の眉を顰め、めーわくそうにぼそりと呟くと布団をかぶって少女に背を向けました。
「あっそーか、」
――どーりでなんかモヤモヤしてたね、少女はぽんと手を打ちました。それからトテトテ布団に戻ると、まるで憑き物が落ちたかのよーに、すっきりストンと眠りに落ちましたとさ、おしまい♪
【17】マッチ擦りのょぅι゛ょ
「……ってそのラインは自重しろよオォォォォォ!!!!!」
「銀ちゃんいちいちじいしきかじょうね、おっさんの非常用マッチにまでそーそー需要ないアル」(トフー)
「火ィつけよーにもだいぶシケってますしねー」(笑)
『あはははははは☆』
「……きっ、キミタチぃぃぃぃ……!」(ふるふる)
(ガラ)「何だいアンタら呼んだかい? アタシゃ忙しーんだよっ」(きせるすちゃ!)
「妖女出たーーーーーーッッッ!!!!!」
「……。(フフフ)どーやら本気でしべりあコースご希望らしいね……!」(まっだーむ★の何某かに火が付いた!)
〓劇終〓
おっさんは顎をしゃくって眼鏡少年を促しました。
「え〜、ボクですかぁ〜?」
何を本気でテレているのか、眼鏡少年はやたらと身体をぐねぐねさせました。天パのおっさんと少女の冷ややかな目線にもまるで気付いていない様子です。と、そのときでした。
「ヨメ候補ならここにいるわよッ!」
――ババーーン!! ガタのきた事務所のドアを8センチピンヒールに蹴破って、ヅラ……じゃないもともとロンゲのにーちゃんがすっかりクセになってしまったボディコンシャス女装子スタイルで意気揚々と現れました。
「!」
デムパを呼んだ覚えはない、三匹は電光石火のチームワークで招かれざる異形の者をただちに簀巻きにして表に放り出しました。
「……んっとぉ〜、ボクの好みはですねぇ〜、」
仕切り直しで眼鏡少年が意見しかけたところ、
「シンちゃん!」
ドアの外れたふきさらしの入り口を塞いで立つひとつの影がありました。よほど急いで駆けてきたのか髪はボサボサ、履き潰した草履の鼻緒は無残にちぎれ、よれよれの半纏の肩は荒い呼吸に上下しています。
「マ夕゛オさんっ……!」
顔を上げた眼鏡少年は青ざめ、息を飲みました。天パおっさんとアルアル少女は、半眼の無表情に並んでソファに鎮座していました。
「何しに来たんですか……?」
ヒゲグラサンのおっさんから目を逸らし、苦しげに横を向いて眼鏡少年が言いました。突っ立っていたおっさんがその場にガバと土下座しました。
「頼むっ! 私とっ、やり直してくれっ!!」
「……」
呆気に取られた眼鏡少年の顔が、たちまちかあっと上気しました。
「無理ですっ……! 今さらそんなっ……、終わったんだ……、夢の時間はとっくに終わったんですよッ……!」
少年が腿に固く握りしめた拳は怒りのためかそれとも他の感情か、小刻みに震えていました。おっちゃんは地べたに伏せたまま少年に詫びました。
「わかったっ、私が悪かったっ! もう深酒はやめるよ! 度を超えた下ネタも言わないし、そこのおじょうちゃんにカンフーシューズでげしげし踏まれてイヤッフー!したりも決してしないッ! 誓うよっ!!」
――だからもう一度だけ、お願いだ私を信じてくれ! 半ベソに鼻水まみれでおっちゃんは訴えました。
「……帰ってください……、」
少年は喉から低く押し出す声に言いました。
「シンちゃんっ……!」
なおも食い下がろうとするおっちゃんに、少年の中で必死に耐えていたものが弾けました。
「帰れよ! できもしない約束なんかして、これ以上ボクを幻滅させないでくれっ!」
語気を荒げて吐き捨てると、少年はおっちゃんに背を向けて逃走しました。が、この事務所には出入り口がひとつしかなかったものですからすぐに引き返してきました。
「……スイマセン、ちょっとそこ避けてください、」
土下座しているおっちゃんの前に立つと、抑揚のない声に少年は言いました。
「あっ、ハイ……」
少年の見えない威圧に押されるように、おっちゃんはそそくさ道を空けました。少年はゆっくり表に出ると、錆びた階段をカンカン下りていきました。途中でズコッと、一段草履を踏み外した音がしました。
「……ま、アイツもどーよーしてるみたいだし、」
ソファで腕組みしていた天パのおっさんが言いました。
「今日のところはいったん引くヨロシ、」
呆然としているグラサンヒゲのおっちゃんに向かってアルアル少女も言いました。
「――あーでも、」
すっくとソファを立ったアルアル少女がおっちゃんを振り向きました。
「踏んで欲しかったら踏むアルけど?」
――あとですこんぶ代ね、少女は突き出した手を無邪気にひらひらさせました。
「……」
グラサンおじさんはしばらくじっと考え込んだあと、
「おっ、おながいします……!」
苦しげに吐き出した息とともに土下座頭を深々下げて、そのまま倒れ込むように地面にデコをめりめりめり込ませました。
(……。)
――……人生って何アルか、思わぬところで予期せぬ切り替えレールにハマって想像していたのと全然違う方向に猛スピードで運び去られてしまう、果たしてヒトの意思だけでそれを止めることができるのか、あるいは効かないブレーキ搭載込みで人生はかもしれない運転なのか、おっさんのくたびれた後頭部めがけてえいやとカンフーシューズを振り下ろしながら、今日もしみじみてつがくするアルアル少女なのでした……、ちなみに眼鏡少年がしばし傷心の放浪に出ているあいだ、よろずやではグラサンおっちゃんをさんざ無給でこき使ってじむしょのドアとソファ直してLEDに電球替えて、ついでにためまくってた家賃もとりあえず三カ月分ばかし払えたので、めざせ!持参金付き寿退社大作戦!の件はしばし保留となりましたとさ、メデタシメデタシ♪
【16】眠らぬ街の美少女
梅雨明け前の寝苦しい夜のことでした。
おんぼろじむしょ兼住宅のうっすいせんべい布団の上でシチュエーションにそぐわぬ絶世の超絶美少女姫がうんうん寝返りをうっていました。
「……眠れないアル、」
少女はばっちりビカーンと目を覚ますと、わりかしバリアフリーなカンジにふすま一枚隔てた部屋に寝ていた天パのおっさん従者を叩き起こしにかかりました。
「起きるアル、私眠れないね、」
――何ならこのまま喧噪の不夜城に繰り出してトッ込みパーリー☆やらかすね、
「……」
おっさんは寄る年波でこのところただでさえ寝つきが悪いのです。ようやっとで平和に寝オチした人間の身体を夜中にガスガスよーしゃなく揺さぶってくるひじょーしきな娘に、
「……その話だいぶ前に本家でやった、」
おっさんは寝癖の下の眉を顰め、めーわくそうにぼそりと呟くと布団をかぶって少女に背を向けました。
「あっそーか、」
――どーりでなんかモヤモヤしてたね、少女はぽんと手を打ちました。それからトテトテ布団に戻ると、まるで憑き物が落ちたかのよーに、すっきりストンと眠りに落ちましたとさ、おしまい♪
【17】マッチ擦りのょぅι゛ょ
「……ってそのラインは自重しろよオォォォォォ!!!!!」
「銀ちゃんいちいちじいしきかじょうね、おっさんの非常用マッチにまでそーそー需要ないアル」(トフー)
「火ィつけよーにもだいぶシケってますしねー」(笑)
『あはははははは☆』
「……きっ、キミタチぃぃぃぃ……!」(ふるふる)
(ガラ)「何だいアンタら呼んだかい? アタシゃ忙しーんだよっ」(きせるすちゃ!)
「妖女出たーーーーーーッッッ!!!!!」
「……。(フフフ)どーやら本気でしべりあコースご希望らしいね……!」(まっだーむ★の何某かに火が付いた!)
〓劇終〓
作品名:かぐたんのぷちぷち☆ふぁんたじぃ劇場Q2 作家名:みっふー♪