アテナの聖闘士
辰巳徳丸は小さな人間だ。
人並み以上の浅ましさを持つ自覚さえある。
しかしただ恥をかかされそうになったという理由だけで人を殺せるほど、ゆがんだ人間でもない。
彼が比奈岸晃を殺そうとしている理由はただ一つ。本来の雇い主であった城戸光政翁の遺言だ。
曰く、
「比奈岸晃を孫に、沙織に決して近づけるな。万一聖闘士になって日本に戻るようなことがあれば、どのような手段を用いてでも殺せ。必ずだ。奴はわしを、他のどの子供たちよりも恨んでおる。その恨みを沙織に向けさせるわけにはいかぬのだ。なぜなら沙織は、彼女は・・・・・・」
辰巳は比奈岸晃がどのような人間か知らない。今更知ろうとも思わない。
だが城戸光政の人となりは理解しているつもりだ。その彼が死すべきだと言うのだから、比奈岸晃は生きていてはいけないのだろう。
だから躊躇わない。