アテナの聖闘士
深い造りの、黒光りする豪奢な椅子。身をきらびやかに彩る宝石や真珠といった品等もすべて、今は亡き祖父である城戸光政が一代で築いた財で得た物である。
しかし遺産ではない。光政は生前から少女にありとあらゆる物を捧げたのだ。まるで神聖な者であるかのように少女を奉り、他の子供たちの妬みや恨みを買うと知りながらも、否、犠牲にさえして彼女だけに愛を注いだ。
その結果の11人だ。
100人居たはずの子供の内で、たった11人しか生き残らなかった。
「辰巳、その中に比奈岸晃の名前はあって?」
「ひなぎし、こう・・・・・・ですか? はて、存じませんな」
もしも少女が辰巳の表情を見ていたなら、持ち前の鋭さでそれが事実ではないことに気付いただろう。
確かに嘘はまずい。だが嘘を嘘だと思われなければいいだけのこと。
比奈岸晃は二度と故郷である日本の地を踏むことはなのだ。そのために必要な手は打った。晃はこの島に渡る途上で、海の藻屑となる運命なのである。