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四月馬鹿

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コツンと佐助の肩口に額を乗せる。それからゆっくり顔をあげ、テーブルに置いていた手を腹にあてがいゆるゆると擦った。上目遣いの眼差しに、佐助はゾクリと背筋を這うモノを自覚した。
と、
ニィ、と犬歯を見せて笑う政宗の顔が視界を占めた。つまりは、今と同じ事を幸村にもしたと言うことか。
「あぁ~もう!今のでナンだってそんな方向に暴走するかな、真田の旦那は!」
かく言う自分が違う方向に暴走しかけたのは決して明かせないが。
「まぁ…『騙していたのでござるか』とか抜かしやがったから『確かめてみるか?』って言ってやったが、な」
余計悪いわ!
佐助は心中であらん限りの力で怒鳴った。声に出さなかった自分を褒めてやりたい。
「そしたら、真っ赤な顔して息詰めて走っていきやがった」
その時の事を思い出したらしい政宗は、未だ佐助の肩に頭を預けたままでくつくつと小刻に震えて笑っている。あぁやっぱり呼吸止めてたんだ、と変なところに納得した佐助だったが、ふと思い立ち、間近にある政宗の頭を見下ろした。
こんなチャンスはそうそう、ない。
「確かめてみたい、って言われたらどうしてた?」
言って、佐助は政宗の前髪をかきあげた。
「おとなしく真田の旦那、受け入れてやったの?」
さらりと髪を撫でつけた手をそのまま耳朶へ運んでやる。途端、政宗が顔を上げた。先ほどまで青白かった頬は赤味さえ差している。
「……、猿飛っ」
唸るように声を絞りだす政宗など、商談で腹の探りあいをしてきた狸どもでも聞いた事はないだろう。そう思うと、佐助は俄かに優越感がこみあげてくるのを感じた。
そこに、

「アホどもが、ココがどこか考えて遊べや」

呆れとも不機嫌ともとれる声が降りかかった。
「あ、お腹の子のパパ、」
「責任取れよ、テメェ」
妙に息のあった、しかし意味不明な掛け合いに腹の子のパパ、もとい、元親は右だけ露にした眼差しを険しくした。
「誰が誰のパパだ、猿! てか、責任てナンのだ、伊達!」
元親が声を荒げるのに佐助は肩をすくめ、政宗は三度テーブルに突っ伏した。
「シカトかよ、伊達っ」
元親が手にしていた紙の束で政宗の頭を叩く。
「コイツは一体なんのつもりだ、コラ」
億劫そうに眼だけで元親を見上げる政宗に、提示されたのは先程彼の頭に落とされたものだ。
「システムの仕様書案じゃねぇか。ナンか間違ってたか?」
「間違うとか以前だ。初期案の名残もなく変更されてやがるじゃねーか!」
パシパシと書類を叩いて苦情を言い募る元親を見遣り、佐助は政宗に小声で問うた。
「なに、アレもエイプリルフール?」
それを拾い聞いた元親は、
「是非そう言ってくれ、伊達。でなきゃマジやってらんねぇンだがなぁ、あぁ?」
今にも手中の束を握り潰しそうな勢いで言った。が、対する政宗はどこ吹く風で。
「今日は生憎と幸村しか騙しちゃいねぇな。ま、アンタの仕事だ、頑張ってくれよ…パパ」
最後に艶やかな微笑を浮かべるまでしてみせた政宗は、笑いを堪えつつも体を震わせる佐助と言葉もなく瞠目する元親を置いてリフレッシュ室を後にした。


その後、

元親は一日中、何処に行っても「パパになるって本当ですか?」と聞かれ「エイプリルフールのジョークだっ」と他人が蒔いたネタを回収して回る羽目になったのだった。

しまいには、
「政宗どのを幸せにしてあげてくだされ、パパどの!」
と幸村に男泣きされ、撃沈した―――――。
 
 
 

■終■

+++++初出:2007.6.16+++++
作品名:四月馬鹿 作家名:久我直樹