【ポケモン】こころの在処
赤い帽子の少年は、本物のヒーローになった。
事件の後大いに経営が傾いたシルフでは、凝り固まっていた体質の改善、事業の整理など上を中心に大きな動きがあったらしい。人員整理の際に当然真っ先に切られた私は、その後カントーを離れジョウトに移り住んだ。今は縁がありとある街で店長として働いている。立地が悪い所為かなかなか商品の売れ行きが伸びないのが悩みどころだった。
あの子の方は、驚くことにチャンピオンのポケモン達とも渡り合えるくらいに逞しくなっていた。テレビに映る姿は堂々として見違えんばかりだったけれど、私といたときよりずっと甘えん坊にもなっているようだった。褒めて欲しいと顔を擦り付けるあの子に、少年はあのとき以上に優しい笑顔を向けていた。そんなほんのちいさなことに過ごしてきた時間と培ってきた絆が透けて見えるようで、私は泣きたくて堪らなくなった。
ほんの少しの悔しさ。そして溢れそうなくらいの安堵と感謝。
少年は今どうしているのだろうか。そして私がついに詫びることができなかったあの子は。チャンピオン辞退以降、点けっ放しにしているラジオが彼の足取りを伝えることはついぞなかった。
作品名:【ポケモン】こころの在処 作家名:ケマリ