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それはまるで木漏れ日のように

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 ――緑…彼を表すのにこれほど適した色はない。
 森のような強さ優しさは勢いの強い水流も穏やかなせせらぎに返る。――










「ジェン兄ちゃん、ルキお姉ちゃんからお電話ぁ~!」

 遠くから聞こえる妹小春の声。
 今日の小春は何故か無駄に上機嫌だ。

「え、ルキから?」
 
ジェンこと李健良の自宅にかかってきた電話。 
留姫から電話とは珍しい。
大抵彼女の場合、用事がある時は話すのが面倒なのかメールで済ませてしまうのに。





「・・・ハイ、お電話変わりました」

 相手は友達なのだから別にかしこまる必要もないが。

『もしもし、ジェン・・・?』

 そう控えめに言葉を発した声の主は紛れもなく牧野留姫だった。

「そうだけど・・・どうしたの?ルキから電話なんて珍しい」

 相手が健良だと分かるや否や、何故か安堵の溜息を漏らす留姫。

『アンタ今から暇でしょ?ちょっと付き合って』

 ・・・何で彼女はこういつも人の話を聞かないのだろう。
とあーだこーだ言っても無意味なのでとりあえず話を進める。

「別に何も予定はないけど・・・何で?」

『・・・いっ、1ヶ月後にジュリの誕生日なの。
 だから誕生日プレゼント・・・買おうと思って・・・』
 
何時の間にプレゼント交換をするほど親睦が深まったのだろうか。

それに何故自分を誘ったのだろう?
本人を誘うことが出来ないのは彼女の性格上理解できるが、健良は樹莉と直接はあまり面識がない。
どうせなら樹莉と親しい啓人を誘えばいいのに。

色々考えているうちに健良は何故か笑いが堪えられなくなり、プッと軽く吹き出してしまった。

『ちょっ、何がおかしいのよ!!
 アタシはただ、この前誕生日パーティやってくれたお礼にと思って・・・
・・・まっ・・・まさかアンタ気づいて・・・』

「え、気づく?何のこと?」

『・・・そう、知らないならいいわ
とにかくッ、今からそっち行くから待ってて!』

【ガチャッ!・・・プー、プー、プー・・・】

 乱暴に受話器を置く音が健良の耳に突き刺さる。

「・・・・・・変なルキ・・・」

 健良は首をかしげながら受話器を見つめていた。










【ピンポーン】

家のチャイムが鳴る。
いつもならインターホンで応答してからドアを開けるのだが、
玄関の向こうの人間の予想はついているので直接ドアを開ける。

【ガチャ・・・】
「!」

 てっきりインターホンで出ると思っていたのだろう。
 ドアの先から直接覗いた健良の顔に驚く留姫。

「何よ、インターホンの意味ないじゃない」
「え、インターホンで出たほうが良かった?」
「・・・もういいッ!」

 行くわよ、と健良の腕を強引に引っ張る。





「デパートに行くならわざわざルキが来なくても僕がそっちに行ったほうがよかったんじゃない?」
「・・・どっちでもいいでしょ。文句ある?」
「いや、ないけど・・・」

 今日の留姫は何だかカリカリしているようだ。

「ねぇ、ジェン・・・」
「何?」
「本当に気づいてないの?」
「だから何が?」
「・・・いや、いい」








 とりあえずデパートの雑貨屋にやってきた二人。

「うーん・・・ジュリって何が好きなんだろ」
「僕に聞かれても・・・
 普通、ルキ達くらいの女の子って何が好きなの?」
「そんなのわかんない」
「(え・・・自分のことなのに・・・)
 そうだな・・・、ここは無難に文房具にしたら?皆使うじゃない。」

 留姫はうーんとしばらく考え込んでいる。

「・・・そうね、そうする。
えっと、ジュリは黄色が好きだから・・・」

そう言って再び商品を選び出す留姫。

「(何だかんだ言ってもやっぱり女の子なんだなルキも・・・)」







『ありがとうございましたー!』

「ルキ、買い物は済んだ?」

 綺麗にラッピングされた文房具セットを見つめながら留姫は首を振った。

「ううん、まだ・・・
一番大切な買い物がまだ済んでない」

「え、そうなの?僕も手伝うよ」
「駄目。・・・これ、持ってて!」

 そういうと留姫は健良に強引にプレゼントを押し付け、エレベーターの方向へ走っていってしまう。

「待ってルキ!どこまで行くの!?」
「地下街!!10分で戻ってくるから絶対来ないで!」

 留姫はエレベーターに乗り込み、姿が見えなくなってしまった。

「地下街って・・・地下は治安悪いのに・・・
・・・10分過ぎたら迎えに行こう。」

 そう呟くと健良は本屋に寄り、コンピューター雑誌の立ち読みを始めた。







「・・・あった」

 留姫は地下の雑貨店の棚に並べてあったグラスを手に取る。
 硝子は薄く緑色に輝き、作りも綺麗で丁寧だ。
 その代わり値段が少し高いが。

「(ずっと目付けてたんだもん、買われてなくてよかった・・・。)」

 そのグラスを大事そうにレジに持っていく留姫の顔は心なしか笑顔に見えた。


「いらっしゃいませ、プレゼント用ですか?」
「どっちでもいい」
「は?」
「~~っ!・・・ラッピングなんていらない!!!」





留姫は人気のないところへ移動し、袋の中身を何度も確認した。

「(やっと買えた・・・これでようやく・・・)」

【~♪】
 突然、携帯の着信音が鳴り響いた。
 携帯を開くと画面には『松田啓人』の文字が。

「・・・タカト?」

 留姫が携帯の通話ボタンを押そうとした瞬間。



「お嬢ちゃぁぁん♪お兄さん達と遊ぼうよぉ~」
「!!?」

 背後には5人ほどの男達がいた。

「タ、タカ・・・ッ」
【ガチャンッ!】

 留姫は慌てて啓人に助けを求めようとしたが、一人の男によって携帯を落とされてしまう。

「無視しないでよ~」
「な、何なのよアンタ達・・・!」








「・・・・10分経った」

 健良は律儀にちょうど10分間、ずっと本屋を動かなかったようだ。

「(やっぱり心配だ・・・嫌な予感もする・・・)」

 そう呟いて雑誌を元の場所に戻した健良は、近くの階段を駆け下り地下まで走った。

「ルキ・・・!」