うそつきのなまえ
決して表情にでない狼狽を、雰囲気から悟ったのだろう千三くんが心持ち口角を上げたのをオレは見ちゃった。見ちゃいました。
「さ、もう行こうぜ?解部副部長殿のおごり10日間の始まりだ。」
「伸びるからオレは出前嫌いなんだよ・・・。」
「でも、たぶんお前の結界もご指名だろ。」
「結界が必要な発動とかさせるなよー・・・。」
ぶちぶちと万八くんが言う姿は誰かを髣髴とさせる。
白髪だから誤魔化されたけど、誤魔化されたままでいたいけど・・・。
ていうか、何気に凄い情報がまた含まれてましたよ?
ねえちょっとアスマ、オレの動揺を分かち合ってよ、ねえ?
オレたちの周りに二重生活してる人が多すぎるよ?
アカデミーの先生やってて解部副部長って、あの人、仕事しすぎだから!
人畜無害な表情で、あの人裏がありすぎだから!!
オレってば暗部を辞めて大正解・・・適正が無い気がするよ・・・。
あっけらかんと、こんなバレテもいいやー的な態度とれません!最近の暗部はどうなってるんですかっ?!
「それじゃ、失礼します。お二人はごゆっくり。」
まるで当て付けるような言い口に、ちょっとカチンと来たオレは大人気なく皮肉って言う。
「・・・千三くんは、髪型変えたほうがいいかもね。」
思い当たる節があるのか、万八くんが瞠目する。
「予想以上に先生修行してらっしゃったので、たまには労おうと思ったんですが、余計な情報でしたか。」
「気持ちだけ貰いたかったよ・・・・・。」
「そりゃ失礼。いつもどおりに面倒くさがってれば良かったか。」
その台詞に、熊が眉を寄せる。あ、気付きそうで気付いてない。
苦笑するオレは二人にせめてこの瞬間だけでも、と先生らしくいつもの出発を促す挨拶を。
「さ、お仕事が待ってるよ~がんばってね?」
その後日談。
「カカシせんせーっ!遅いってばよ!特訓してくれるっていったじゃん!!」
朝の集合と違う、特訓のときに遅刻をしたことのないオレを、ナルトが怒る。
「あー、うん、ごめんごめん、柄にも無く今日の修行メニューをどうしようか悩んじゃってさー?」
「えーマジで?!それってば嬉しいけど、いっつも適当じゃねー?」
今日に限ってどうしたのか、と不審げになるのは仕方ない。
けどね。
「やー、今日くらいはねー、真面目に実のある修行をさせたいなーって思っちゃったのよ。」
あの、余計な情報を知ってから初めて個人レッスンする今日くらいは、と思っちゃったのだ。
そんなに高くないつもりで、実は低くも無かった自分のプライドにかけて、今日くらいは暗部にも無駄でないレッスンを、と。
「何しろ、千に3くらいなら普段の修行でも実になるのに当たるだろうから熊は気にしてないんだけど、やっぱり万に8っていうのはね、意図的に確率上げないと実になるのに当たらないデショ?」
だらり、と音を立ててナルトが冷や汗をかいている。
うーん子供だなあ、という感想に、ちらっと湧いた、かーわーいいーなーという感想は紛れさせる。
実際のところ、そんな感想が似合う庇護対象じゃなかったわけだから、未だに湧くそんな感情は迷彩させるに限るのだ。
キッと決意のまなざしで、ナルトがオレを見上げてくるから眼を瞠る。
「・・・カカシ・・せんせー、オレってば、オレ・・・」
「はいストップ。忍が自分から自分のことを語るのは結構なルール違反なのよ?」
お前ってば、よくそこのところ分かってないのか自分の目標とかナニが好きとか語っちゃうけどね?
だからドベって言われるのよ?
言えばやっぱりあの日の寝起きのときと同じくらいの稚さで、ぱちんと驚きに瞬きを一つして。
「有難うってばよ!カカシセンセー!!」
屈託なんてどこにもないような笑顔で(生まれ育ちを考えりゃそんなことあるわけないのに)、お礼を言われる。
知ってるけど、知らないフリ。ドベのままでの扱いを変える気はないって、きちんと通じたらしい。
「じゃ、今日のチャクラコントロール修行はコレね。」
そういって持ち出した四角い水を張った盆。普通のものより深めのそれに、爪楊枝みたいな串を沢山刺して、いくらも糸で結んで。
「・・・ひょっとして、水迷路?これに葉っぱとか浮かべて、ゴールまで進ませたりする?」
ヒクリと頬を引き攣らせたところを見ると、経験済み、しかもあんまり上手くない様子。
「ご名答~。だんだん水路を狭くして迷路も複雑にして、葉っぱも小さくしてくけど、ナニ、これ上手だったりするの?」
わかった回答を求めるのは悪趣味かな、やっぱり。
「・・・あんまり下手すぎるって一回匙投げられた・・・。」
「・・・うん、お前のチャクラコントロールが心底下手だってのは本気で分かってるから、先生も覚悟の上よ?」
時々果敢無い表情で空を見上げる熊の生徒を思い出す。
きっとあの遠望する眼差しには、ナルトの修行事情も幻に映っていたのだろう。
修行修行、また修行。それを厭わない姿は真面目にえらいと思うけど。
ちょっと師弟揃って挫けそうになる、そんな日々も、ま、いいデショ?
※万に八つ、千に三つの本当、ということで、両方とも嘘吐きを言い表す言葉です。
千三屋、万八野郎。