【米英】絆
そう切り出した俺に、何のことだかわからないアーサーは、きょとんとした顔で俺を見上げる彼から顔を背けた。
「君だから言うんだぞ。
誰かに言ったら許さないからな!?」
何のことだかわからないアーサーは黙って頷く。
そんな彼を俺は自分に押し付けるように抱きしめ、俺の顔をアーサーが見れないようにした。
「君から独立するって決められた……ううん、決めたあの日、今の名前に改名しようと思ったんだ。
独立を決めたのだって……」
そう言いかけて、腕の中のアーサーがもぞりと動き出す。
「決めたのだって……なんだよ?」
今にも泣きそうな顔の彼。
そんな彼の頬に軽く口付ける。
「決めたのだって……最初は、君に認めてもらいたかったんだぞ。
人間の子が父親の背を見て育って、認めてもらって追い越すように。
でも、いざ戦いが始まってみて気づいたんだ。
君に認めてもらいたかったのは、そういう意味でではなくて、子供じゃなく、一人の男として。
フォスター・カークランドとして君に認めてもらうのではなくて、アルフレッド・Fジョーンズとして……一人の男として、恋愛対象として認めてもらいたかったからだって。
それでも、君に育てられたことも過去のことにしたくなくて、でもそういう風にみて欲しくて……今思えば欲張りだったんだろうけどね。」
俺が俯き加減でそう言うと、アーサーは少し嬉しそうに微笑みながら、俺の頬を撫でてくる。
「お前が欲張りなのは今に始まったことじゃねぇじゃねぇかよ。」
そう言ってくれる彼が嬉しくて、抱きしめていた腕を片方だけ外して、その手にそっと手を重ねた。
「酷いんだぞ、アーサー。
否定はしないけど……ね。」
手に擦り寄るようにしながら、アーサーを抱きしめる手に力をこめる。
「なぁ、アル……、お前の名前の”F”って……」
俺を見上げながら、アーサーがじっと見つめてくる。
それに俺は思わず苦笑いをした。
「あの”F”は……”Foster”の”F”だよ。
君がつけてくれたあの名前……。
改名しても、それだけは捨てられなかったんだ。
君にいつも、昔の俺の話ばかりしてって怒ってたけど、これじゃ君の事怒れなくなっちゃったじゃないか。
君を恋人として愛してるのに、過去に縛られてるのは俺も一緒なんだぞ……。」
アーサーは何も言い返してこなかった。
ただ、泣きそうな顔をして、微笑んだ。
「本当に、秘密なんだからな?」
自然と俺の顔もほころび、彼の目じりに口付ける。
「分かってるよ。
二人だけの秘密だ。」
くすくすと笑いながら、アーサーが抱きしめ返してくる。
アーサーと呟くように言うと、彼が顔を上げてたところに、彼の唇にそっと軽く口付ける。
それに一瞬驚いたアーサーは見る見るうちに赤くなっていった。
「さ、お茶にしようよ、アーサー。
折角の紅茶が冷め切っちゃわないうちに。」
俺はそう言ってするりとアーサーを放すと、紅茶の乗ったトレイをもって応接間に向かう。
それに嬉しそうにアーサーはついてきた。
本当は、恋人としても家族としても、君との繋がりを失いたくて、その思いを”F”に込めたなんて、アーサーには言わないんだぞ。
お茶の時間の間、うんざりするくらい昔の話をされていつもの軽い喧嘩をしたのは内緒なんだぞ。
でも、これが俺にとって幸せなんだ。
ずっと大切にしたい人との大切な時間だからね。
END