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【腐:サクセラ】通じない

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***

いつか伝えたいという気持ちは自分の中にずっとあった。
ただそれが堺さんにとっては迷惑でさらにどうでもいいことであること、馬鹿な俺にだってわかっていて。
だからといって心が動くことがなくなる訳じゃない。
同じチームで気まずくなるのが嫌だからとか、まるで子供みたいなことを理由に先延ばしにしてきた。
きっと。
堺さんのことだから俺が何を言っても、それが受け入れられないとしても、多分チームメイトとしては接してくれるんじゃないだろうかとか。
どこかで少しだけ。受け入れてくれるんじゃないだろうかとか楽観的な考えが浮かんでは、それはないだろうと首を振る。
だからあれは、たまたまの事故なんだと言ってもいいだろう。
春だから気分がふわふわしてたなんて言ったらそれこそ堺さんに怒られそうだ。
ただ。一人でトレーニングルームで黙々と体を動かす堺さんを見ていたら、そこには堺さん一人で。
俺も一人で。誰もいなくて。
あああ、と頭をかきむしる。
気持ち悪いと言われるのは想像の内。
何を考えているんだと怒られるのも予想の範囲内。
だけれども。
「まさか通じないなんて」
同じ日本人なはずなのに、俺の言葉は堺さんに通じてなかった。
伝わってなかった。
男なのに好きになってすみませんとか、俺は嫌われても堺さんのこと尊敬してますとか。
色々考えてたはずの言い訳は全部無駄になった。
無駄になったどころか、心臓が口から出そうになったあの告白さえも消えてなくなってしまった可能性がある。
キスを。してしまったけれど、あの前後の会話の感じからしたら、あれすら罰ゲームだのエイプリルフールだと堺さんが思っている可能性は高い。
「何やってんだ俺・・・」
独り言の虚しさを考えるよりも、今は声に出さないともう体の中に何かがいっぱいになって破裂してしまいそうだ。
言ってしまった、という恥ずかしさとそれが伝わってないかもしれないという、もやもやした気持ち。
それでもどこかで伝わらなかったことを喜んでいる自分と、キスしてしまったことを後悔して、けれど感触を思い出そうとしている自分が心底。
「気持ちわりい」
俺はもうどうしたらいいんだ、と考えることすら無駄なような気がして。
馬鹿なんだからこれ以上考えないで寝ればいい、と思ってももちろん眠れるわけがない。
明日。明日どうしたらいいのか。
どうしたらいいと思っている内にどんどん明日に近づいていく。
「堺さん・・・」
毛布を頭から被ったら自然口をついて出た言葉。
頭の中がそれだけで占められるのに明日その人に会うのが怖い。
寝てしまえば悩みも忘れられると、ぎゅ、と目を瞑って体を丸めても。
睡眠を取ることもプロとしての義務だ、なんて言われたことも思い出しては閉じたはずの目の裏に浮かぶ顔に後ろめたさを感じる。
沸き上がる感情にいい年して泣きたくなった。
「堺さん」
誰にも聞こえるはずがないのに声が小さく掠れていく。
心臓の音がでかい。破裂しそうだ。
このまま寝られるわけがない・
結局。意識が落ちたのは明け方、だったような気がしても目覚ましにすぐ起こされた。

end
作品名:【腐:サクセラ】通じない 作家名:しの