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救いを求める 夢待ち人

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01

「私のワタリはロジャーではなくジェバンニがいいです」

 プラチナブロンドの髪の毛をくるくると指先で弄りながら少年が呟いた。それに面食らったのは隣に居るロジャーさんより、きっと僕だろう。
 何故、僕の名前が出たのか、その問いを掛ける前にロジャーさんは苦虫を噛み潰したような表情でわかった。と一言だけ呟いて部屋を出ていってしまった。
 沈黙が部屋を占拠する。
 正直なところ、展開に付いていけない。
 けれどこれはもう昔からなので比較的慣れてしまった自分が情けない。

「ニア、ワタリって……」
「……ようするに……、」

 究極にめんどくさい。と言った顔でワタリと言うのは役職の名前みたいなものだとニアは言った。Lに一番近いお手伝いさん。執事のような役割なのだと。
 先代を忘れる事の無いように、Lとワタリの名前を継いでいこう。ロジャーさんはいつものしかめっ面ではなく少し微笑んだ顔でニアに告げていた。
 FBIに居たとき、何度かワタリさんに接触した事があった。けれど、自分がそんな人間になるとは思ってもみなかった。
 正直な話、そこらのじゃじゃ馬よりタチの悪いニアをサポートできるほどの技量を持ち合わせていないと、自分でも思う。けれどニアはロジャーさんの居なくなった部屋でただじっと僕の顔を見つめて、

「私のワタリになっていただけませんか、ラウド」

 そう、まだ幼さが残る手で僕の手を握った。

 二人きりの時、彼は僕の事をラウド、と本名で呼ぶ。それが少しだけくすぐったくて、僕は返事をしそうになったのだけれど、ぐっと堪えて喉につっかえる名前を口にした。

「ニア、」
「なんですか?」

 手を握ったままニアが僕を見上げる。その表情はやはりまだ幼い。
 頭の中でぐるぐると繰り返していた問いかけを紡いだ。

「何故、僕がワタリなんだい?」
「貴方以外適任者がいないからです」
「レスターがいるじゃないか」
「いいえ。レスターではワタリは勤まりません」

 間髪入れずに答えニアの顔は『何を馬鹿な事を言っているんだ』といつもと同じような表情だった。
 ――僕はどうやら逃げられないようだ。
 僕は一つ溜息を吐き出すと、ニアの足元に跪いて彼の左手を取った。
 黒い瞳が驚きに見開く。その手に触れて、上目遣いにニアを見る。このアングルから見る事は普段無いからなんだか少しだけ新鮮で、思わず早まる胸の鼓動を落ち着かせながらゆっくりと言葉を紡いだ。

「僕はあのワタリさんのように有能ではない」
「……知ってます」

 いつもと変わらない声音。けれど、僕の好きな声。
 手を握って、頬に寄せて、柔らかな手を堪能しながらも頭の中はぐるぐると思考の渦で混乱している。

「なら……僕じゃなくても、」
「けれど、私には貴方が必要なんです。ラウド」

 ああ、なんて殺し文句だ。
 そんな言葉を言われてしまっては本当に逃げられないじゃないか。逃げるつもりも無いけれど。
 僕は彼の左手の甲に忠誠のキスを一つ、くちづけて笑った。
 どこまでも、付いていこう。
 ワタリとして。貴方が求めるのならば。

 手の甲から温もりを離してそのままゆっくりと立ったままのニアの唇にキスを落とした。
 背中に回される温もりがいつまでも続けばいいと、僕は思う。こんな小さな背中にどれだけの命を抱えるのだろうか。考えるだけでおぞましい。
 それだけLはすごい人間だった。それを継ぐのが彼なのならば、僕はそれを必死にサポートするだけだ。柔らかな髪の毛に触れて深く、深くくちづけを交わした。

 (でも、何故貴方は悲しい顔をしているの?)
作品名:救いを求める 夢待ち人 作家名:紗和