一夜の客
「…お兄さん、お名前を教えて」
もっと目の前の男を知りたい…客に頓着しないオレが、この男だけは知りたいと思った
男は暫し考えた後、やがて懐から髪と筆を取り出しさらさらと何かを書き始めた
そうして、したためた物をオレに差し出した
『雲雀恭弥』
「く、もすずめ…?」
読み方が分からないと男を見上げる
と、男はくすくすと笑っていた
「"ひばり"だよ」
「ひばり、さん?」
「…なんで疑問形なの」
はぁ、と盛大に溜め息を吐くが口元に浮かんだ笑みはそのまま
嬉しかった
純粋に楽しかった
もっと話をしたいと、まだ離れたくないと思った
しかし無情にも――
「白んできたな」
「…お帰りにならないと」
空が黒い闇から青へと変わっていく
朝が来る
男と別れなくてはいけない
「綱吉、」
知らず知らずに俯いていたオレは男に呼ばれ、顔を上げる
「?何でしょう」
「また今夜」
男は微笑んだままそう言って立ち去った
オレは格子に指を絡ませ、後ろ姿を見送る
たった一言、ただの口約束なのに
――"また今夜"
期待せずにいられない自身がいた