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さよなら誕生日

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寂しい訳じゃないけど。
 目が覚めて思わす呟きが零れて、それを追いかけるように溜息が零れた。

 折原臨也という男はマメな男である、と僕は思う。
 女の子(別名、信者ともいうけど)からの絶大の信頼と愛を受ける彼は、当然のごとく相手の全てに関して機敏である。
相手の些細な変化を逃さず見つけ、望む言葉を見抜いて紡ぎ、相手の心のツボを抑える術を心得ている。
確かに折原臨也という男の本質は最低だろう。
それでも彼は釣った魚には餌を与えるタイプである、と僕は推測する。
とことん甘やかし、傾倒させ、喜ばせ、自分を愛するよう仕向け、それから突き落とす。
もう一度言おう。
折原臨也は相手の心の動きに機敏な男である。
そしてそんな彼は、相手の望むことを汲み取ることに長けている。
何が言いたいか。
そう、それは、
「……、」
 今日でもう6日も過ぎている。
別に誕生日を祝って欲しいとか、そんなことは思っていない。
いやそれは嘘だ。
正直に言おう。
誕生日は彼と過ごせるものだと思っていた。
 というよりは、大人の癖に子供のような我儘や独占欲、自己顕示欲をもつ彼のことだから、日付が変わると同時にこの部屋に乗り込んでくるものとばかり思い込んでいた。
 別に彼の押し入りという不法侵入を期待してた訳じゃない。けれど。
 何となく眠れなくて、落ち着かなくて、寝れずにいたなんて絶対に言えない。
 きっとこれは死ぬまで誰にも言わない。
 というような、小さな決意を僕は沢山もっている。
 特に彼、折原臨也に関することについて。
 だってそうだ。知られたら最後、どこまでもネタにされ弄り倒され挙句の果てには世界中に知らしめられる。
 いや、そんな意味のないことをする人ではないけれど、それくらいの危機感を持って挑まなければならない相手なのだ。
「、」
 そ、と沈黙を貫く携帯を撫でる。
 寂しい。
 認めよう、そうだ、僕は寂しい。
 だけど、だからってなんて言えばいいのかと尻込みして、連絡すらできない。
 今まで彼の思考を正しく読めたことがないので、今回のことも態となのかそうではないのかが判断がつかない。
 彼が僕の誕生日を知らない筈はない。そして、忘れているということもないだろう。
 そうすると、可能性その1。知っていて敢えて知らんふりをしている。可能性その2。仕事が忙しくて連絡できない。
 なんだこの真逆の二択は。
「…はあ、」
 思わずまた溜息を吐いた。
 携帯のディスプレイを指で叩いてみたって彼から連絡がくる訳じゃないけれど。
ディスプレイの表示は27日、僕の誕生日からもう6日が経過し、あと数時間で一週間に突入する。
ごろり、と横になって古ぼけた天井を見上げた。
僕の誕生日より前から彼とは連絡をとっていない。
最後に逢ってから一昨日で1週間が経過した。
最後に声を聞いてから昨日で1週間。メールも然り。
指折り数えたり、目を閉じて数えなくたって分かる。
我ながら女々しいとは思うけれど、それでも彼と連絡をとれなかった日、会えなかった日、声を聞けなかった日、そうやって無意識に数えている。
臨也さんと連絡がとれないことなんて、実はしょっちゅうだ。
2、3日連絡がつかないことはざらで、半月くらい何の音沙汰もない時だって何度かあった。
それでもこうやって期待してしまうのは誕生日という特別な日があったせいだろうか。
馬鹿らしい。
ほんと、馬鹿らしい。
文字でもいいから連絡が欲しいなんて。
声が聞きたいなんて。
会いたい、なんて。
「……」
 ふと、頭に浮かんだのは親友の姿だった。
 来年も盛大に祝おうぜ!大人の階段を滑り登る帝人を慰めてやろうぜ、なあ杏里!…なんて、滑り登るって何なのとか、慰めるって何なの誕生日に不吉なんだけど、とか突っ込みをいれながら、次の年も隣にいるのが当たり前だと思っていた、親友。
 今年は、園原さんが「私一人で申し訳ないです」なんて謝りながら小さな包みをくれた。
 それだけだった。
 去年は正臣が本当に盛大にやらかしてくれたおかげで、クラスメイト全員が何のかんのとプレゼントをくれた。
 その時、去年の誕生日の時はまだ臨也さんと付き合ってなくて。
 帰路で偶然に会った彼に、誕生日おめでとう、と当たり前のように言われ。
 そう、その時に彼は言ったのだ。
 来年は俺が最高の誕生日にしてあげるよ、と。
馬鹿みたいに期待した。
早く来年になればいい、なんて。
早く誕生日が来ないかな、なんて。
「ばかみたい、…」
 付き合おうってなって、彼と恋人同士になって。
 沢山色んな所に行って、沢山色んなことをして。
 キスして、手を繋いで、一緒にご飯を食べて、夜景を見たり、抱き締めあって、彼に抱かれたり。
沢山のことをした。
知らなかった事を沢山教えてもらった。
その度に僕の心は跳ねた。どきどきして、幼い子供みたいにわくわくして、何度も何度も彼に恋をした。
これは死ぬまで、死んでからだって誰にも言うつもりはないけれど、たとえ相手が正臣だろうと、そう例え臨也さんにだろうと、絶対に絶対に決して言うつもりはないのだけれど、
「…臨也、さん……」
 本当はずっと、過ぎ去ってしまったけれど、今年の僕の誕生日を心待ちにしていた。
 沢山の時間を過ごした。
 沢山の場所に行った。
 沢山の言葉をもらった。
 沢山キスして愛してもらった。
 だけど、本当はずっと、一年前のあの日から、彼と付き合うずっとずっと前から、ほんとうはずっと、

 誕生日を楽しみにしていた、なんて。

 来年は俺が最高の誕生日にしてあげるよ、と。
 彼のその言葉を、僕はずっとずっと待っていた。
 手を繋いでいても、抱き締めていても、キスをしていても、抱かれている最中にだって、思い出すことがあった。
 臨也さんのサプライズが予想もつかない事だろう、ということは予想がついた。
 きっと今まで見たこのないくらいの、いや、きっとこれから先に二度とは見る事が叶わないくらいの光景が眼前に広がるのだろうと思った。
 でも違う。
 確かにそうゆう「非日常」を期待した。
 でもそれだけじゃなくて。
 誕生日という特別な日に、彼と一緒に過ごしたかった。
「…っ」
 ぎ、と力任せに握り締めた携帯が軋んだ。
 でも臨也さんが忙しいのは今に始まったことじゃない。
 情報屋という何とも形容し難い胡散臭い二次元の世界のような職業を本業にしている彼は、24時間365日、昼夜問わず走り回っている。
 情報を与えるために、またはその情報を仕入れるために。
 だから、彼と連絡が取れなくなることなんて何時ものことだった。
 なのに何故こんなに悲しくて、寂しくて堪らなくなるのだろう。
 誕生日くらい、傍にいて欲しかった。
 顔を上げた表紙に壁にかかった日めくりカレンダーが目に入った。
 客先から貰ったんだけど、俺は使わないから。帝人くんにあげるよ。君ってこうゆうちょっとレトロなの似合うしねえ、と、全く意味の分からない言葉と共に臨也さんが置いていった物だ。
 日付が大きく印字されただけで日曜は赤字、なんていう本当に今時あまり見かけない日めくりカレンダーは、21日からめくれないままでいる。
作品名:さよなら誕生日 作家名:ホップ