さよなら誕生日
近づくと、その右隅に書かれた文字に目が留まる。
『帝人くんの誕生日!ラブ!』
綺麗な字で書かれた、微妙にそぐわない内容に今は笑うことも出来なかった。
このカレンダーをくれたその日、その場、僕の目の前で彼はこの文字を書き足した。
書き足してこう言ったのだ。
来年の帝人くんの誕生日は、俺が最高の日にしてあげるから、と。
信じてた訳じゃないけど。
忙しい彼の事だから、僕より優先させなくてはならない仕事だってあるだろう。
だけど、一言くらい。
おめでとう、の一言くらい、メールでいいから欲しかったのに。
他の人から言われるより嬉しいとか、そんな比較はしない。しないけれど、それでも彼からの言葉が欲しかった。
誕生日くらい一緒にいたかった。
誕生日くらい声が聞きたかった。
誕生日くらい連絡が欲しかった。
誕生日くらい、
…、
そうか。
そうだ。
誕生日なんてあるからいけないんだ。
こんな『特別な日』なんてあるからいけないんだ。
これがただの何もない普通の日だったら何とも思わなかった筈なのに。
こんな、こんな、
「っ」
21日、と書かれたカレンダーを力任せに横になぎ払った。
帝人くんの誕生日!、という文字が、ラブ!、という軽い文字が、けれど僕の中に重く届く文字が、視界から消える。
いらない。
いらない、いらない。
いらないいらないいらないいらない。
こんなに寂しくなるだけなら、無駄な期待をして悲しくなるだけなら、こんな特別な日なんていらない、こんな日なんて誕生日なんて特別みたいなそんな日なんて
「こんな、誕生日なんてっ、なくなれば、…いいんだ……っ!」
消えてしまえばいいのに。
こんな日なんて、期待してしまう自分なんてこんなこんなこんな、臨也さんが好きでたまらない自分なんて、
「それは俺としては困っちゃうんだけどなあ、?」