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きみのよる

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どうしてこうなった。

鬼道はゴーグル越しに灰色の景色をみつめてはため息をついた。
耳をつんざくはげしい豪雨の音。隣にせまそうに立っている男も同じことを考えているらしく、途方のない色をしている目と視線がまじわる。
「鬼道、どうする」
「どうするもこうするも…」
「止みそうにないな」
「そうだな…」


いつものように練習が終わった後、いつものように彼らは鉄塔へ向かった。円堂の自主練癖は健在で、そのとなりで風丸と豪炎寺と鬼道がこれからの練習メニューを決めたり、フォーメーションをなおしたりしていた。しかし日も暮れたところで突然円堂が、「やべ!今日かあちゃんにはやく帰って来いっていわれてたんだ!」と騒ぎ始め、家が近所の風丸も引きずられるようにして風のように去って行った。間もなくとりのこされた豪炎寺と鬼道ももう帰るかと言い始めたときだった。乙女心と秋の空とはいったもので、もともと曇り空だったそれはみるみるうちに暗雲となり以下省略。つまりふたりはいま豪雨のなか鉄塔に取り残されていた。雨をしのぐ屋根つきのベンチがあったので、通り雨ならば待てば止むだろうといった考えもあまく、むしろ雨脚は強くなる一方だ。


「豪炎寺、ここで足止めしててもしょうがない。とりあえず駅まで走ろう」
幸いまだ秋口で、それほど寒くもない。この雨ではかなり濡れるだろうが、さっさと帰って暖かくすれば風邪をひいたりはしないだろう。
「鬼道は駅までか」
「?ああ」
「じゃあ俺の家のほうが近いな。いくぞ」


そういうと豪炎寺は鬼道の手をひいて一気に駈け出した。「おい!?」とたんに全身に叩きつけるように降る雨。がむしゃらに走っているとみるみるうちに靴下まで浸水してくる。全身をおそう不快感、ゴーグルに叩きつけられた雨で視界もわるい。それでもひかれた手を離すことはできず、鬼道は前方を走る男の背中をひたすら追った。




「ついたぜ」
「あ、ああ…」
「とりあえず水、ふかなきゃな」
程なくして着いた豪炎寺の家は鉄塔からすこしはなれた街中にあるマンションの一室だった。比較的新しくきれいなその建物を見て、そういえば最近引っ越してきたんだなと記憶をたどる。ぽたぽたと滴がエレベーターの床に染みをつくる。足音がひびく廊下をふたりは無言で歩いた。カバンから鍵らしきものをとりだした豪炎寺を見て「今日は親御さんいないのか」と聞くと、「ああ 夜勤らしい」と当然のようにかえってきた。


「じゃあ俺がいなかったらおまえは今日ひとりだったのか」
「……まあ そうだな」
すこしの間から、そんなことは気にしてもいないような豪炎寺の物言いに鬼道はすこしさみしくなる。
鬼道も義父は仕事が忙しいひとだったが、必ず夕飯は一緒に食べていた。そもそも家の中に必ず使いの者が一人はいる彼にとって、だれもいない家に帰りひとりで過ごすということ自体あまり想像できない。


「はい」
そう言ってバスタオルを手渡される。頭のてっぺんからつま先まで文字通りびしょぬれだったふたりは、玄関先で濡れた頭をふき、上着と靴下を脱いだ。
「失礼します…」
豪炎寺しかいないとわかっているが律儀にそう言い靴をそろえた鬼道に、豪炎寺はすこし笑いをふくんだ声で「いらっしゃい」と答える。なんだか豪炎寺をつつむ空気がいつもより緩い。こいつも自宅に帰るとすこしは気を許すということか。思っていたより和やかな雰囲気に、雨で冷えて緊張した体がすこしほぐれるのを感じた。


「鬼道、先にシャワー浴びたらどうだ」
湯船をためてもいいけどすこし時間がかかるし、このままじゃ風邪ひく。濡れた学生服をハンガーにかけて豪炎寺が言う。
「おれはいい。おまえが先に入ってくるといい」
「客に風邪ひかせられるか。俺は着替えとか用意してるから」
「だが…」「風呂、こっち」
立ち尽くす鬼道の手をひいて脱衣所まで連れていく。さきほど豪雨のなか手をひかれ走った時よりもあたたかい豪炎寺のてのひらに、鬼道はまたどうしようもない気持ちになった。しんぞうの真ん中あたりがざわざわして落ち着かない。今日はこいつのペースに流されてばかりだから調子がくるってるだけだ、そう思い込んで鬼道は肌にはりついたシャツのボタンをはずした。


熱いシャワーを浴びて脱衣所に出ると、きれいに折りたたまれて置かれたバスタオルと着替えにまたこころがざわついた。鬼道が身に着けていたカッターシャツやインナーは洗濯機に放り込んだので、当然このTシャツとハーフパンツは豪炎寺のものだ。下着だけは多少濡れていても我慢する。円堂と風丸のように幼馴染のあいつらならやりかねないが、鬼道はそこまで世話になるつもりは毛頭ない。
すこしシャツが大きい気がするが、なんだか悔しいのでなかったことにした。


「シャワー借りたぞ。あと着替え。ありがとう」
「ん」
リビングに戻ると豪炎寺はテレビをつけてソファに腰かけていた。すでに濡れた服からは着替えている。
「てきとうにくつろいでくれ。おれも風呂はいってくる」
「あ、ああ」
「あと鬼道」
「なんだ?」
「雨止みそうにないし、今日は泊まっていったらどうだ」
「え ちょ ごうえん…」
そう言って豪炎寺は濡れた服をかかえてリビングを出て行った。相変わらず人の返事をきかない男だ。
小言を言いそうになりながら鬼道は若干パニックになっていた。泊まる?豪炎寺の家に?
予想外の展開に濡れたドレッドから滴がしたたりおちるのも気づかない。つけっぱなしのテレビの音が耳を通り抜けていく。
鬼道有人、14歳にして初めて友人宅にお泊まりである。


作品名:きみのよる 作家名:mum