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コンビニへ行こう! 前編

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ゆっくりとお金を数えて差し出した小さな手のひらが、臨也に向けて商品の入ったレジ袋の取っ手を差し出す。レジの人間って、慣れるほどこういう細かいところに手抜きをするような気がするな、と臨也は思った。コンビニだから期待してないし、そこまで丁寧にしてくれなくてもいいんだが、とも。
「はい、どーも」
受け取って、とっとと帰ろうとくるりと店員に背を向けた臨也に、その時、
「あ、あの!」
と控えめな声をかけてきたのは、実は彼の方だ。今の様子から見ると、きっとおそらく全く覚えていないのだろうけれど、そのとき声をかけられなかったならきっと、臨也は彼に惹かれることなどなかっただろう。
「何?」
新人っぽいし、もしかしてお釣りの渡し忘れでもあったのか、と振り返った臨也に、少年は少しためらうように言葉を迷った。こっちは仕事で急いでるんだからはやくしろ、と思いつつ、そんな思いは顔に出さないように作り笑顔で言葉を待つと、もう一度小さく「あの、」ともごもごと。
「ウェットティッシュ、使いますか?」
「え?」
一瞬の沈黙。
「あ、すみません、余計なお世話かもしれないですけど、あの、気になって。顔に泥が」
「げ、ほんとに?」
言われて、臨也は改めて自分を見下ろしてみた。どろどろでボロボロの服に、あちこち擦り傷をこしらえていて、とてもみすぼらしい。どこからか血も流れている気がする。明らかにどこかで戦ってきました!見たいなその格好、店員からしてみれば不審なことこの上なかっただろう。
そういえば、雨上がりでぬかるんだ道とか走ったかも。それなら泥がつくのは当たり前か。
「もしかして俺の顔、泥だらけ?」
「はい、結構」
どうぞ、と差し出された店の備品らしきウェットティッシュを、臨也は遠慮無くもらうことにした。追いかけっこをしている間は夜だったからいいが、今はもう朝日も輝いていて、早朝とはいえそこそこに人通りもある。そんな中を顔まで泥だらけで歩くのは格好がつかない。
「ありがとう、君、気がきくねえ」
無敵で素敵な情報屋さんのイメージ的に、常に小綺麗にしておきたいものだ。身だしなみを整えるためのタイムロスなら、許容範囲内。
「あ、いえ、失礼しました」
珍しくちゃんと人を褒めた臨也の言葉に謙遜して、少年は首を振った。それからまじまじと臨也を見上げる。顔を拭いた臨也がさっぱりした気持ちでそのごみをポケットにねじ込んだのを見計らったかのように、その声がもう一度「あの、」と呼びかけた。
「ん?何、まだついてる?」
「いえ、そうじゃないですけど……」
それから、とてもいいにくそうに、困ったように眉を寄せて。



「あんまり、無理しないでくださいね」



とか、なんとか。
そんなことを。
少年は。
「え……、あ、お、俺?」
無理するな?
言われたことの内容を理解できずに思わず聞き返した臨也に、少年は言い訳をするようにつらつらと言葉を繋げた。
「あの、季節の変わり目で体調も崩しやすい時期ですし、疲れた顔なさってるのに、眠気覚ましとか……。お仕事か何かで、おやすみできないのかもしれませんけど、その、ちゃんとねたほうがいいと思うし、ああもう何言ってるんだろう僕!ごめんなさい!」
「あ、いや、あの」
どうして謝ったのかさえ理解出来ない。
だっていまの言葉は、臨也を心配していってくれたのであって、だからつまり、この場にふさわしい言葉は、ごめんなさいなんかじゃなくて。


「……ありがと、」


これが、正解だ。
なんだか気恥ずかしくてもごもごとしか言えなかった臨也の声に、それでも少年は。
ふわりと。
気が抜けたように微笑んで、そして、臨也の胸は「きゅん」と音をたてた。
「ありがとうございました、またお越しくださいませ!」



そんな、恋の始まりの土曜日の朝だった。



作品名:コンビニへ行こう! 前編 作家名:夏野