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コンビニへ行こう! 前編

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take3 天使の提案




今日も今日とて、土曜日の朝は健やかに過ぎ行く。
「あ、 臨也さん、これ新発売です、美味しかったですよ」
臨也が店内に入ると同時くらいに、すぐ近くで品出しをしていた帝人がそっと差し出したのは、黒蜜抹茶プリンだ。臨也は反射的にそれを手にとって、ちょっぴり触れた指先にどきどきしたりした。図書館で同じ本をとろうとしてうっかり出会っちゃう高校生でもあるまいに、いい加減この心臓も落ち着けばいいのに!
「ありがとう、あの、今日も、そ、そろそろ終わりの時間だよね?よかったらご飯、」
「ストップ!臨也さんそれなんですが」
いつもどおりに朝ごはんの至福の一時にお誘いしようと口を開けば、帝人はとても真面目な顔で臨也の言葉をさえぎる。
普段、臨也の言葉が多少まごついても最後まで温かい目で言動を見守ってくれる帝人にしては、珍しい行動だ。突然のことに冷や汗をかきつつ、俺何かしただろうか!と静かにパニックに陥った臨也を尻目に、帝人は考え込むような仕草で首をかしげて、一言。
「あの、臨也さんってカレー好きですか?」
……家庭の味すぎて、嫌いな人ってあまりいないんじゃなかろうか、それは。
「好きだよ!」
真面目に何を問われるのかと思えば拍子抜けだ。とりあえず肯定すれば、よかった、と帝人は安堵の微笑を零した。
あ、この顔可愛い。
いや、帝人君は全部可愛いけどね!
「ど、どうしたの急に。カレーとか?」
最近では不意打ちで可愛い顔を見せられても、なんとか言葉は繋げるようになった。臨也は自分の成長を褒め称えると共に、このままいつか「挙動不審な臨也さん」から「カッコイイ臨也さん」になるにはどれほどの試練を超えなくてはならないのかについて考える。気が遠くなりそうな現実である。
「ああ、いえ、実はちょっと考えたんですけど。いつも奢ってもらって悪いなあって」
「悪くないよ!?」
「なんというか気持ちの問題で」
「え、あの、それは、俺が迷惑、」
「え!?いえ、そういうことではなくてですね!」
恋には弱気な折原臨也、あっと言う間に泣きそうな顔になって捨てられた子犬のようである。そんな臨也に慌ててフォローを入れつつ、帝人はちらりと時計を見た。店長も何も言わないけれど、本来お店の中はお客様との私語厳禁だ。
こほんと咳払いを一つして、帝人は声のボリュームを落とす。
「ええと、要するに、余り奢ってもらってばかりだと僕が心苦しいなと」
「俺が奢りたくて奢ってるんだから気にしなくていいんだよ?」
「まあそうかもしれませんけど……なんだか臨也さんと友達で居るのがそれ目当てみたいに見えるって、言われてしまって、それは流石に」
こ、これは。
もしかして「だから今後一切ご飯には誘わないでくださいね」とか言ってしまうパターンなんだろうか?そうだとしたら俺は今後どうやって生きていけばいいんだ。っていうか別にご飯目当てだろうとなんだろうと、帝人君が俺に時間を割いてくれるならそれだけでいいんだよ!なんでもするよ俺は!
と、叫びたいけど叫べない小心者は、ぱくぱくと口を動かして声にならない声をひねり出そうとするが、できずに結局言葉を飲み込んだ。
その顔と言ったら、まるで置き去りにされた子供のような、とてつもなくショックを受けてしょんぼりしている表情である。
「だ、だからですね!」
ちょっとまってくれ、これじゃあ僕がいじめてるみたいじゃないか!と帝人は慌てて続けてフォローを急ぐ。
そんな、世界の終わりみたいな顔しなくても!
「僕、お昼にカレーを作ろうと思ってるんですけど、臨也さんもご一緒にどうかなって!」
「……え?」
「や、だから。いつも奢ってもらってばかりだから、たまには僕がお昼ご飯でも作ろうかなって、終わってから作りはじめるから朝食にはちょっと遅いですけど、早めのお昼にカレーってことで」
「え?あ、え?」
「あーもう、だから!」
さっぱり理解できていなさそうな臨也に向かって、帝人はつい大声で怒鳴った。



「お昼食べに家に来るか来ないか、どっちなんですか!」



……繰り返すが店内は、お客様との私語厳禁だ。
原則は。
「……竜ヶ峰君」
ちょっと、と声をかけてきた店長に、しまった、と天を仰いだ帝人。そして一瞬硬直した臨也が、ぱちぱちとぎこちない瞬きをして、ふらりと動いた。
帝人ではなく、すぐそばまでやってきた店長に向かって、とても真顔で。
「すみませんちょっと、一発殴ってくれる?」
「はあ!?あ、いえ、あの、申し訳ございませんができかねます」
無 茶 言 う な 。
接客業の店員に向かってなんということを頼むのか。そもそも、なんで殴れなんていうのか。帝人があっけにとられていると、臨也はさらに畳み掛ける。
「え?じゃあ蹴ってもいいよ」
「っだ、だから、できかねます!」
「仕方ないなあ、じゃあ足を踏んで、それでいい」
「お客様、あのですね……」
「突き飛ばしてくれてもいい」
「だから、ですねぇ!」
「つねってもいい、なんかとにかく何か俺に痛みを!」
「うわあああ臨也さん!待って!ストップ!落ち着いてくださいー!!」
一体!
どこの!
変態が!
コンビニの店員に痛みを乞うのか!
帝人は必死に臨也を羽交い絞めにして、ずいずいと店長に詰め寄ろうとしていた臨也を止めた。そりゃもう必死に止めた。だってそうでなければこの変人と話していた帝人自身が誤解される。っていうかすでに誤解されている気がする!
違いますから、僕はこの人のこと殴ったりしませんから!
「離して帝人君近い近い近い!」
「あなたがその口を閉じるなら離しますよ!」
「大丈夫!ただ俺はこれが現実だって知りたいだけだから!っていうか夢じゃないよね!?帝人君本物だよね!?そして俺は生きてるよね!?」
「自分で確かめればいいでしょう、何で人に頼むんですか!」
ぴたり。
急に動きを止めた臨也に、帝人はようやくほっと一息ついて羽交い絞めにしていた手を離した。若干おびえたように臨也を見ている店長に申し訳なくてならない。
「へ、変な人だけど悪い人じゃないんです!」
そちらへのフォローを入れようとした帝人の視界の隅で、臨也がすっと動いて……。
「うわあああもう何してるんですかぁあああ!」
「い……痛いよ帝人君……」
殴った!
自分で!
自分を!
何この人馬鹿なの!?
痛みに涙目になりつつも、これが現実だと理解できてこらえきれない笑みを浮かべる臨也と、唖然とそんな臨也を見詰める店長の間で、僕のほうこそ泣きたいよ!と思いながらも帝人は懸命に声を張り上げた。



「へ、変な人ですけど……ホントに悪い人じゃないんです、悪い人じゃ!」




大恥をかいた。
帝人は自分の家のキッチンでコトコトとカレーを煮込みつつ、今朝の出来事の回想を終了した。あれからまたいろいろと大変だった、主に店長への説明が。でもまあなんとか誤解は解けて、臨也はちょっと頭のネジが何本か外れているけれども悪い人じゃないってことは伝えられた……はずだ。店長が妥協してくれたのかもしれないが。
「臨也さーん、もうすぐ出来上がりますけど、たくさん食べる人ですか?」
「う、うん!人並みだよ!うん、人並み!」
作品名:コンビニへ行こう! 前編 作家名:夏野