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コンビニへ行こう! 前編

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答える臨也はといえば、そわそわと落ち着かない様子できょろきょろと室内を見渡している。何も無い部屋だけれども、ここが帝人の家だというだけで、臨也にとっては桃源郷も同然だ。
帝人君は毎日ここで寝て起きて着替えて食事してるんだ……!なんて思うだけで、心は舞い上がって踊りだすほどだ。出しっぱなしで部屋の隅にたたんである布団に、叶うなら今すぐダイブしたい。そして帝人君ラブと叫びながらごろごろしたい。
ああそれにしても信じられない。自分が今帝人の家に居るなんて。
臨也は何度かつねった頬をもう一度つねり、痛みに現実を実感しては幸せに浸る。まさかそれを目撃した帝人に、この人Mなのかなと思われているとは、知らないままのほうが幸せだ。
ダイニングテーブルなど無い狭い家なので、ローテーブルにカレー皿を持って行き、ついでに水とサラダを添えて、シンプルな食卓の完成である。
「はい、どうぞ」
「い、いただきます!いただかせていただきます!」
臨也はスプーンでひとすくいしたカレーを目で味わい、鼻で味わったあとぱくりと一口。これが帝人君の味、帝人君のカレー。そう思うだけで、今まで食べた中でダントツ美味しいカレー第一位にランクインだ。
涙を流さんばかりに美味しさをかみ締める臨也の反応を読みきれず、帝人は美味しいのかまずいのかよくわかんない反応だなあ、と首をかしげた。そりゃ、市販のルーだし、自分で食べた感じだとニンジンが若干かたいくらいで別に不味くは無いのだが。
どうせ作ったのなら、美味しいと思って貰いたいし。
「あのー、お味どうですか?」
なので、ストレートに訪ねてみる。その言葉に我に返って、臨也は満面の笑みで答えた。
「美味しいよ!うれしいな。料理は手作りが好きなんだ」
特に「好きな子の」手作りは特別だ。
とは流石に言えないけれど、その嬉しそうな笑顔に安堵する帝人だった。よかった、これで普段奢ってもらっている恩は多少返せたはずだ。時々こうして作ってあげれば、正臣にもメッシー君とか言わせないし!
清く正しくお友達!
自分の中で折り合いをつけて、帝人もカレーを美味しく頂く。和やかな食卓は、双方にとって幸せ一杯のまま無事に終了した。
そして。
食後のまったりムードの中、まだ幸せの余韻を噛み締め続けている臨也に、帝人は冷蔵庫の中からデザートを取り出す。
普段、帝人はあまり食後に甘いものなど食べないのだが、今回は特別に用意した。だって臨也と家で食事するんだから、もしかしてずっと知りたかったことの答えが分かるんじゃないかという期待があった。
「臨也さん、はいどうぞ」
にこやかな笑顔と同時に差し出したのは、もちろん、市販のプリンだ。そしてついでに、当たり前のようにコンビニからもらってきたストロー。
「え?あ、ありが、と?」
ついうっかり、差し出されるまま受け取ってしまったが、その期待に溢れる輝きの瞳を見て、臨也は事態を悟った。


試されている!


ストローでプリンを食べる姿を見たがっているに違いない!
この期待を裏切ることは、今の臨也には出来そうにない。キラキラと輝く瞳の帝人が『まだかなまだかな』とストローに注目している。え、なにそれどうすれば。
なめらかプリンだからストローですえないことは無いだろうけど、相当の肺活量を要すること請け合いだ。下手すりゃ窒息。
臨也は帝人の笑顔とストローと、何度か視線を往復させて考えた。
ここで素直に君の気を引く為にストローをつけてもらっていただけで、本当はストローでプリンを食べたりしない、なんていえるようなら、そもそもこんなヘタレな恋はしないわけで。だがしかし、ここで「ストローでプリンは食べないよ」とネタをばらせば、帝人を失望させてしまうかもしれない。
葛藤は一瞬あったが、素敵で無敵な情報屋として、やっぱり最低ラインのプライドというものがある。
ここは断るべきだ。
簡単じゃないか、にっこり笑ってスプーンくださいと言えばいい話だ!
臨也はごくりとつばを飲み、期待に満ち満ちた帝人の可愛らしい笑顔を見返した。この笑顔を曇らせてしまうのは忍びない。だが!
無理なものは無理!
「み、帝人君、あのね」
「はいっ!臨也さんのために用意しました!」
ま、眩しいよその笑顔は!
折れそうな決意を、けれども臨也はもう一度奮い立たせる。
き、気合だ俺!このままストローでプリンを食べる変な人として定着するのは避けるんだ!ストローの用途は内緒です、ってミステリアスな男を演じるんだ!俺はやればできる子!
自分に言い聞かせ、息を吸って、吐いて。
「あのね!」
ストローを帝人に向けて突き出しつつ、臨也は。



「ごめんこれ長すぎるから、せめて短くしてくれる!?」



……その日、折原臨也はストローでプリンは飲めることを、身を持って知ったのだった。



作品名:コンビニへ行こう! 前編 作家名:夏野