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ギブアップ

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 咥え煙草の黒髪の男は、まるで渋柿でも口に含んだかのようにずっと顔を顰めている。
妙な静寂の中、自分が沈黙を破らなければ一向に話が進まないことを観念したのか、やがて物静かに男は言葉を発した。
「何がどうなってどうしてこうなった?」
「まあ、あれがこうして結果こうなった、みたいな?」
 男の決死の問いをいとも簡単に、さらりとかわす銀髪の男の顔が、普段どおりの、なんとも覇気のない表情だったのが黒髪の男の怒りに火をつけた。
「みたいな、じゃねえよ!!」
 黒髪の男が食ってかかると、ようやく銀髪の男の表情が変化する。
これが罠だと分かっていても、叫ばずにはいられない。
口元の片端を引き上げた、まるで人を馬鹿にしたような笑みを浮かべた銀髪の男の顔は、黒髪の男の怒りを増長させるに充分すぎるほどだった。
「やだなあ多串くん、冷静になろうよ」
「なれるか!!」
 咥えた煙草に火が付いてなかったのがせめてもの幸いで、黒髪の男が口元から落とした煙草をわざと緩慢な動作で、まるで焦らすように拾い上げた銀髪の男が放った言葉に、黒髪の男は最早頭を抱えるしかできずにいた。
「いまパンツ見えた?」

 いつものように適当に待ち合わせ、何ともなしに共に時間を過ごす。
少なくとも土方はそのつもりで、いつもの場所に足を運んだ。
時間通りに来ないのは毎度のことで、相手の登場が早かったり遅かったりする事にももう慣れた。 
今日はどうやら自分のほうが早かった、それだけで少し優越感に浸りながら胸ポケットを探って取り出した煙草に火をつける。
相手に弱みを見せたくないのは、自分の立場のせい。しかし根っからの性分であることに土方は未だ気付いていない。
紫煙を燻らせながら空を仰いでいると、そろそろ吸い終わる頃を見計らったかのように、やがて相手が現れた。
「よお」
 片手を挙げて、やる気のなさそうな、飄々とした表情を浮かべる相手。
「おせえ」
 土方の文句にへらりと笑う銀時に、土方は少しの違和感を覚える。
それは、挙げられた手と反対の手に持たれた荷物。風呂敷に包まれたそれは割と大きい。
「何だそれ」
 土方の問いに、銀時はまた、へらりと笑うばかりだった。
行きつけの飯屋に入り、いつものメニューで腹を満たした後は、もう行く場所など一つしかない。
そういう関係になって、時は大分過ぎた。
事の始まりがどうであったか、最早どうでもよくなってきたくらい、お互いの関係は深くなってきている中で、弱みを見せたくない土方にとって、相手の存在は土方の中であまりにも大きくなっていた。
途端に挙動不審になり始めた土方に気付いて、銀時は思わず笑みを漏らす。
そういうところが堪らなく愛しいのだと相手に告げたらきっと、半殺しどころでは済まないことをよく知っているので敢えて口には出さないが、そんな土方を自分だけが知っていることに、銀時は僅かな優越感を持っていた。
さりげなさを装って、銀時はわざと土方の手を握ってみる。
驚きで肩を揺らして体を強張らせ、それでも手を振り解かない土方に、銀時の胸の内で土方への愛しさがさらに募っていくのだった。
にやにやとしたいやらしい笑いを浮かべる銀時に気付きながら、それでも自分の右手に感じる温もりを振り解けない自分に僅かに焦燥感を感じながらも、土方は無表情を保つことに努める。
急に右手が強い力で引っ張られ、状況を判断する間もなく土方が連れ込まれたのは薄暗い路地裏。
「何すんだ」
 気付けば自分の真正面に、まるで行く手を阻むように立ちはだかる銀時の顔が、やけに神妙なことに土方の動悸は早さを増していく。
この表情をよく知っている土方は銀時の顔を見つめながら、やがて自分の脳裏に浮かんできた情景に思わず喉を鳴らした。
次の瞬間にはお互いの唇が重なっていて、それを拒む理由もない土方は甘んじて相手の思惑に乗る。
しかしここがいくら路地裏とは言え、天下の往来がすぐそこにあることが土方の集中力を散漫にさせていた。
「集中しろよ、こら」
 いつもは緩い相手の顔が、この時ばかりはあまりにも隠すことなく雄を感じさせ、そんなギャップに土方は心酔したように目を細めた。
やがて土方の表情が恍惚としたものへと変化したとき、まるで見計らったかのように銀時の唇が土方からするりと離れていく。
名残惜しさを隠さない土方の顔に満足した銀時が意地悪く笑うと、我に返った土方はバツが悪そうに俯いた。
駆け引きに関しては、今までもこれからも相手に勝てそうにはないことを土方はよく分かっている。
しかしそれに甘んじていては、新撰組の鬼の副長として名を馳せている自分の面子が持たないと、土方が表情を引き締めるのを見た銀時が小さく笑う。
「なんだよ」
「いーや?かわいいなあって思って」
 明らかに馬鹿にしたような口ぶりだったが、土方は喉まで出かけた文句を飲み込んだ。
何を言ってもやり込められるのは目に見えている。そして、土方が悪態を吐けない理由がもう一つ。
二人を包む穏やかな空気と、相手の自分を見つめる瞳が、すっかり土方から毒気を抜いてしまうのだった。

 そんな些細な幸せを噛み締めた一瞬が土方の脳裏を掠める。
派手な原色に包まれた空間は薄暗く、周りを照らすのは淡い光のみで、何処か背徳的な感情を呼び起こした。
雰囲気を盛り上げるはずの小道具たちが目に映る中、土方の胸中はそれとは反して下降していく。
それは視界の端にいる、先程まで確かに自分が愛しさを感じていた人物に原因があることを土方は確信していた。
だるそうに欠伸をしながら、無造作に髪をかき上げる相手、それは何らいつもと変わりない姿だ。しかし問題はその格好にある。
ここに到着してから早々に小部屋に篭って何やらこそこそと目論んでいるのことには気付いていたが、まさかこんな結果が待っていようとは土方には予想できるはずもなかった。
「お前…それ何処から手に入れてきやがった…」
 過剰なほどフリルで彩られたメイド服を纏い、ご丁寧にもニーソックスを履きガーターベルトまで着用した相手がいる何ともシュールな光景に唖然としながらも精一杯、冷静なふりをしながら低い声音で土方が尋ねると、片頬だけを歪ませたまるで悪い顔で銀時は笑った。
「土方さんはこういうのが好みなんですぜぃ」
 最早、似ているのかどうなのかどうでもよくなってくるやる気のない銀時の物真似は、しかし土方には充分すぎるほど伝わっていた。
隙あらば自分の息の根を止めようと目論んでいる可愛げのない部下の顔がしっかりと土方の頭に浮かぶ。
「…あの野郎…」
 しかしここでふと、聞き逃すことの出来ない事実に一瞬、土方の頭の中は真っ白になり思考回路が止まった。
「おい…なんであいつが…」
 出来ることなら聞かなかったことにしたいのは山々だったが、そうすることも出来ない。
自分たちの関係は、誰にも知られていないはずだった。むしろ、知られないようにしていたはずだった。
こうして二人で白昼堂々と並んで出歩いていることを疑問に思う者は多々いるだろうが、それでも、まさかそういう関係になっていようとは誰も思うまい、そう土方は高を括っていたが、それが至極甘い考えだったことが今、証明されたのである。
作品名:ギブアップ 作家名:たかな