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それは些細なことだけど

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 だからこそ、上気して色づいた肌はより一層赤く見え、まるで誘惑するかのようにリッドを誘う。
「耳、真っ赤だぜ」
 その耳に直接流し込むように囁いてみれば、背けていた顔を思わず向き直らせ耳を隠すように掌で覆うキールの姿。上気させた顔は耳の比ではなく、それこそ林檎かと思うほどで、眦には薄く雫がたまっていて今にでも零れ落ちそうだった。
 どくん、と心臓が鳴る。
 正直なところ、自分でも性悪だと思うが、キールの泣き顔は……たまらなく好きだ。子供の頃に比べ今では殆ど見せないけれど、だからこそ泣くまで追い詰める事は多々あった。罪悪感がないのかといえばそれは違うが、けれど自分の言動に堪えきれず涙を流して嫌々とする様はたまらなくリッドの嗜虐心を満たしてくれる。
 思えば子供の頃からそうだった。必要以上にからかっては泣かせて、それが楽しかった。それがこいつのコンプレックスになっていたなんて今の今まで知らなかったけれど。
「……泣くなよ」
 苦笑して眦を親指で拭えば、キールはぴくりと肩を跳ねさせた後に照れ隠しのようにむすっとした表情をしてみせた。
「泣いてない」
 ぶっきらぼうなその声にリッドは再び苦笑する。やはり、少し苛めすぎたか……と目尻を赤くするキールを見ながら息を吐いた。
「……本当に、理由なんかなかったんだ……」
「え?」
 一瞬、何の事だかわからずに間抜けな声を出す。それに呆れたような顔をしたキールは小さく溜息を吐き出した。
「お前の事……その……見てたって事だよ!!」
 言わせるなよ恥ずかしいと早口で捲くし立てたキールは脱力した用に俯いて再び溜息を吐いた。
「お、おい。キール……?」
 そのまま顔をあげないキールに声をかけるがキールはそのまま地面と向かい合ったままだ。
 拗ねただろうかと顔を合わせてくれないキールを見ながら頬を指先でぽりぽりと掻く。さてどうしたものかと考えていると、キールからぽそりと何かが零れた。
 しかしそれは風が吹けば掻き消えてしまいそうなほどに小さく、リッドの耳には何を言っていたのか聞き取れずに耳を欹てて聞き返す。けれどすぐには返ってこず、それでも急かすことはせずにじっと待った。
「……理由がなきゃ……お前の事、見たら駄目なのかよ……」
 今度ははっきりと聞こえたその声は、拗ねた子供が今にも泣き出しそうな、そんな声。
 思わず抱きしめたい衝動のまま、それを抑えることなく実行すれば、驚いたキールが反射的に顔をあげる。
 しかしその顔をあえて見る事はせずに、掌で頭を軽く押し肩に額を当てさせる形にする。キールはそれに抵抗はせずに、大きく息を吸い込み吐き出しながら、おずおずと腕を回してきた。
「……馬鹿リッド……」
 呟かれたそれは妙に甘ったるい。既に幾度か身体を重ねる関係にまでなっているにもかかわらず、それだけのことがむず痒く気恥ずかしくてこちらまで何故だか体温があがった。
 昔とは違いすっかり素直さの欠片すらなくなってしまったのに、時折見せるしおらしさは反則だと思う。
 こっそり溜息を吐きながら、さてどうしたものかと自身の身体の変化に悩む。そうして出てきたのは冒頭のキールの言葉。
「確かに本能に忠実、だな……」
「リッド……?」
 苦笑交じりの呟きはキールにまで届いたようで、しかしこの場でする気にはなれなくてなんでもないとばかりに頭をぽんぽんと軽く叩いた。
 キールは不審そうに顔を上げたけれど、それ以上は何も言うことなく再び頭を肩に預けてくる。
 そうして少女達のはしゃぐ声が二人を呼ぶ声に変わるまでの間、二人はただ互いを抱きしめあっていた。




作品名:それは些細なことだけど 作家名:みみや